狂犬柴犬〜人に成れない俺を愛して〜

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51章 『オウムという名の物』





「ご主人様ッッ!!」
扉を開けると、嬉しそうに『9637号』が飛びつこうとしてきた。
私は嘲笑した。
自分が繋がれている鎖の長さを考えてなかった結果『9637号』は私の目の前で床にころげた。
柚という医師の話を聞いてから、俺の中で『葵さん』…から『9637号』にまで落ちていた。
大切に…だけど雑に扱って良い物なんだと思えば、人でなければ憎む事も無い。
そう思えるような気がした。

なのに、何でそんなに嬉しそうに飛びつこうとしたんですか?

「イテテ…痛いってぇ…」
「そりゃそうでしょうね」
「俺、ご主人様って言えるようになったよ?言えてるでしょ?」
何が嬉しいんだか、何が楽しいんだか…満面の笑顔に反吐が出そうだ。
「そうですね。オウムさんは偉いですね」
「なら…ここから出してくれる?ここから出してもらえる?」
熱くなった胸の内が急に冷めた。
ああ…そうか。外に出たいだけか。

そりゃそうですよね。

自分を嘲笑した。
『9637号』の“たらし”の功績は、この笑顔が武器だったんだろうな…。
シたいから、笑顔で、無邪気さで、いろんな男を釣ってたんですよね?
それに釣られるようでは、私もまだまだだ。

その笑顔に惑うな。

「ご主人様って言えた程度で出してもらえる…なんて、オウムの頭はしょせん、その程度だな」
『9637号』の顎を掴んで私の方を向かせながら笑う。
面白いほど急激に落胆の色に染まる。
追い打ちをかけるように私は言う。
「服を脱ぎなさい。オウムに服なんていらないでしょう?綺麗な羽で覆われているんですから」
布団に放り投げられて、『9637号』はうつ伏せたまま、しばらく動かなかった。
「聞こえなかったのかよ!服を脱げよッッ!」
強引に起すと目が潤んでいた。
「泣けば助かる?私の嫌いなモノ…教えてあげましょうか?その悲観ぶってる泣き顔だよッッッ!!」
頬を叩けば、我慢していた涙が堪え用も無く流れ出す。
憐れですね。
けど、そんな顔を叩けば叩くほど、胸の中に渦巻く何かが晴れるようで、けど何度叩いても、胸のもやもやは消えない。
「早く言う事きけよ!脱げって言ってんだろッッ!!」
「ゴメン…ごめ…脱ぐから…脱ぎますッッ!だから…だから叩かないで……もう叩かないでぇええええッッ!!」
「さっさとしねぇからだろ!」
最後に一発、より強く叩いて手を離す。
涙を拭っても、そんな簡単に枯れる訳も無い。
「泣きっ面のままでも良いんだよ!早く脱げッッ!!」
「ひぅ…ごめんなさい…ゴメンナサイッッ!!」
『9637号』は慌てて服を脱ぎだす。
けれど慌てている上に、涙で視界は極めて悪い状態で上手く脱げない。
怯えながら何度も俺の方を見る。

滑稽だ。

そろそろ限界だと力をまた見せつけようか?
そんな風に手を動かせば、より慌てる。
慌てて、脱ぐに脱げない服に翻弄されては、何度もそれを引っ張る。
どうして脱げないのかと、何も言えずにヒステリックになった子供みたいだ。
可笑しくて笑いがこみあげてくる。

早くしないと、ほら痛い目にあいますよ?

そんな私に怯えながら服を脱ぐ彼の必死さが滑稽で可笑しい。
大笑いしてしまいそうですよ。
そんなアナタが私の枷なんて、本当に笑えてくる。
「いつまで掛ってんだよッッ!!」
私が怒鳴るとビクッと体を震わせる。
「もう少し…もう少しだから…もう少しで脱げるから叩かないでッッ!蹴らないでッッ!痛い事しないでッッ!痛くしないでッッッッ!!!」
「そんな風に訴えてる暇があるなら早くしろよッッ!!」
手を上げれば、恐怖に体を強張らせる。

暴力ってヤツは、本当に凄いですよね。

もう『9637号』の体には痛みが滲みついている。
私を彼がどう思っていようが関係ない。
痛みが滲みついてしまった事で『9637号』は私の言いなりになるしかない。

躊躇いながら、理不尽だと思いながら私の言う事をきけば良い。

下着に手をかけて私の方を一度見た。
「どうしたんです?手が止まりましたけど?」
私は努めて笑顔で言ったんですよ?
でも、アナタは怯えて、仕方なくて…そんな風に嫌がりながら下着を一気に降ろした。
露わになったソレに私が何か感じるとでも?

ただの肉のくせに、羞恥?馬鹿馬鹿しい。

「ご…ご主人様…ご主人様…ぁ……」
「脱げましたって、そんな風に隠したりせずに私に全てを見せる事ぐらい出来ないんですか?」
「だ…だって…だってぇ……」
私は『9637号』を蹴り倒した。
「だって?だって…何だって言うんですか?」
コロンと呆気なく倒れて、私はそんなに足を降ろした。
「ぅあ…ううぅ…」
それから靴のまま踏みつけて、腹の肉に皺が数本刻まれるように捩じる。
「あ…アアアアアーーーーーーーーーッッ!!」
「馬鹿じゃねぇの?オウム風情が、何恥ずかしがってんだよ」
「ひぅぅぅううううッッッ!あ…アーーーーーーーーーッッ!!」
さらに力を入れると『9637号』は俺の脚を掴む。
「何人もの奴に、ソイツを晒してきたんだろ?俺にだって見せたかったんじゃねぇのかよッッ!!」
「あうぅううううううううううッッッ!!」
「クソ頭の悪いオウムだなッッ!!俺の言う事は素直に聞け!恥ずかしがるとかなあッ!人間様のする様な事、してんじゃねぇよッッッ!!」
「あううううッッ!!ごめんなさい…ゴメンナサイッッ!!」
笑える。
「悪いと思ってんなら、態度で示せば良いんじゃないですか?見ててやるから、一人でシろよ」
「し…します!しますぅうううッッ!だから…だから痛いのやめて…痛くしないでぇええええええッッッ!!」
そう言いながら、俺の脚から手を離すと『9637号』は擦りだす。
「ふぅう…うううぅぅッッ!!」
怯えて、そんな気も無い。
だから、満足いくようなショーにならない。
それを『9637号』は焦っている。
「んふふ…心意気だけは買ってあげますよ。俺が足をどけても続けろ」
足をどかしてやる。
けれど、痛んだ腹を抱えて泣くなんて事はしない。
必死に言いつけどおり続けている。
「ふぅ…ぅうううううッッ!!」
している事とは似つかわしくない嗚咽が口から漏れる。
ひたすら必死に私に見せるために頑張っているのに、それは決して上手くいかない。
「次の宿題は決まりましたね。次に私が来る頃には、それを上手くこなせるようにしておいてくださいね?怖くて上手くいかない…なんて言い訳、次は聞きませんからねッッ!!」
「アアアッ!」
太股を蹴って私は面白くて笑った。
蹴られて痛かったのか太股を押さえた『9637号』は、それでも、もう片方の手で擦っていた。
「ああ、次回上手くできたらお弁当でも持ってきてあげましょう。痛い目にあいたくなかったら、飢えて死にたくなければ、きちんと出来るようにしておくんですよ?さっきも言いましたけど…言い訳なんか聞かねぇからな」
私が背を向けると、出ていくと気付いて私を呼ぶ。
「ご主人様…ご主人様ッッ!一人にしないで…置いていかないで!置いてかないでよ!!ちゃんとスるから…ちゃんとシますからッッ!!」
「ちゃんとスる?そんなの次回で良いですよ。ああ、シャツだけは着ても良いですけど、他の物を身に着けていたら怒りますからね?」
私はそう言いながら、『9637号』を振り返ることなく出ていった。
きっと、扉の向こうで大泣きしてるんでしょうね。
もっと泣けばいい。
自分の不幸に苦しめば良い。
なんで私になんか目を付けられたのかと嘆けば良い。
そうやって、やっと身に付けた自我を壊して私の言葉に従順なモノになっていけばいい。
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