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□雨は止んだらしい(抱微)
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ざああ、と勢いよく降る雨に私はため息をついた。そんな私に構わず一向に止む気配を見せずに振り続く雨が憎たらしくて、私は近くにある小石を思い切り蹴りあげた。カラン、小さな音を立てて宙を舞った小石はやがて雨の中へと消えていった。
一人取り残された私にはただ虚しさだけが残った。

「雨、やまないかなあ…」
「本当だよね…」

突然聞こえた声に心臓が跳び跳ねた。声の主を探すと、目に飛び込んできたのは私のよく知るボーイフレンドだった。

「カドルス!」
「雨宿り?」
「うん、買い物の途中なんだけど…」
「偶然、僕もだよ。雨に濡れるのは嫌だし、二人で止むの待ってよっか!」
「そうね…!」

彼は嘘をつくのが下手だ。いつも雨に濡れることなんか気にしないのに。さりげない彼の優しさにどきんと胸が高鳴った。

「ありがとう、」
「そんな…お礼を言われることなんて」

頬を赤らめ、照れ臭そうに頭をかく彼の仕草に頬が綻ぶ。彼と一緒ならこのままずっと、雨が降り続けてもいいかな、なんて思いながら空を見上げた。

「……あれ?」
「どうしたの?」
「…ううん、」

(…だんだん晴れてきた気がする)

なんて、いくら何でも急すぎる。きっと気のせいだと自分に言い聞かせて視線を地面に戻した。

「早く止まないかな」
「そうね…」
「ギグルス、」
「なあに?」
「手、繋いでもいい?」
「…ええ」

結んだ手と手から伝わる彼の暖かさを感じながら、私は再び顔を上げた。

(あっ…、)



(だけどもう少しだけ彼の隣にいたいから)
(照れ臭そうに俯く彼にはまだ言わないでおこう)

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