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□美しい恋と出逢った少女(英微)
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こんな時、どうすればいいんだろう。かたかたと震える手は次第に赤みを増していき、冷や汗が首筋を流れ落ちた。周りからみた私の姿は少し…いや、かなり間抜けなものだろう。一体誰が想像出来るだろうか。クラスのマドンナが崖からぶら下がってる姿なんて。全く、こんなの良い恥さらしだ。誰かに見られるくらいなら、このまま落ちてしまおうか。

(どうせ、短い命だもの)

そりゃあこんな町で育てば死に対する恐怖なんて無いに等しいし、そろそろ自分の全体重を支える手にも限界が来ているようだ。私は何の躊躇もなく崖から手を離し、身体は重力に逆らわず下へ下へと落ちていった。風をびゅんびゅん切って死に近付いていく私。そうだ、叫んでみようか。もしかしたら、ほら、漫画とかでよく出てくる正義のヒーローとやらが私を助けてくれるかもしれないじゃない。なんて、バカなことを考えながら私は息を大きく吸った。

「きゃあああぁあぁ!」

きゅ、とわざとらしく目を閉じてみた。こんな演技しても正義のヒーローなんて架空の人物が助けてくれるはずもないし、ましてや漫画やテレビから飛び出してくるはずもない。私はただただ、全身にくる激痛を待ち続けた。

「危ない!」
「―――きゃっ!」

ふわり、と私を包み込む柔らかい何かに、私は目を見開いた。さらりとした蒼い髪の毛が、私の頬をくすぐる。状況が把握出来ず辺りをきょろきょろ見回すと、自分の足が地面に着いておらず、その代わりに見知らぬ男性にお姫様だっことやらをされていることに気付いた。

「ふぅー…間に合った」
「あ、貴方…誰?」
「コラ、助けてもらったらありがとう、だろ?」
「…ひゃっ、」

おでこに軽い痛みが走った。目の前にはぴんと指を立てて爽やかな笑顔を浮かべる青年。私は彼から目を離せなかった。

「あ、ありが、とう」
「どういたしまして。これからは気を付けるように」
「…えっ、と…はい」

思考が回らなくて曖昧な返事を適当に返した。彼は私を優しく引き剥がし、爽やかな笑顔を再びこちらに向けた。気がつけば私はしっかり、自分の足で立っていた。

「じゃあね」

そう言って彼は去っていった。ふわりと赤いマントを靡かせ、空へと飛んでいった彼を私は暫くの間、ただ呆然と見つめていた。彼の後ろ姿はそう、正義のヒーローそのものだった。そんな可憐な姿に魅せられ、私の口から漏れ出した言葉は―

「……素敵!」



(ねえ!これってきっと運命よね…ペチュニア!)
(…はいはい、)

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