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□たった一言で満たされる(英微)
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内緒で履いてきたママのハイヒール、大人びた化粧。これなら彼も私を大人の女性として見てくれるかしら。期待で胸をいっぱいにしながら待ち合わせの場所へと走ると既に彼が待機しているのが見えた。直ぐに駆け寄り彼の名前を呼ぶ。ゆっくりと振り返る彼は一体どんな反応をしてくれるのか、ドキドキと心臓が煩く鳴る。驚いた表情の彼に私は問い掛けた。どう?似合うかしら?真っ赤な唇から漏れ出した言葉に彼は顔をしかめた。どうしたのかしら、綺麗になった私を見て嬉しくないの?

「ギグルス、」
「なあに?ヒーローさん」
「その顔…それに靴…」
「ああ、お化粧してみたの。ハイヒールは今日の為に買ったのよ」

ママのハイヒールをこっそり履いてきた、なんて恥ずかしくて言えやしない。私はいつもの笑顔で嘘を吐いた。

「君には似合わないよ」

頭を岩で殴られた気がした。せっかく彼の為に苦手なお化粧を頑張ったのに。このヒールだって、ママに怒られること覚悟で履いてきたのに。貴方にそんなこと言われたんじゃ意味ないじゃない。

「僕は飾らない君が好きだよ」

こちらを見て爽やかな笑みを浮かべる彼、不意に胸が高鳴る。彼は私を喜ばせる達人だ。ドキドキと鳴り止まない心臓と次第に暑くなっていくほっぺが憎たらしかった。



(大人びた化粧を褒められるより)
(そのセリフの方が何倍も嬉しいかもね)

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