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□明日が急に愛しくなった(英微)
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「きゃああああ!」

遠くから聞こえた少女の悲鳴に僕は咄嗟に家を飛び出した。声の主は多分ギグルスだろう。全く、目を離すとすぐこれだ。びゅんと風を切って雲一つ無い空を飛び回る。見つけた!高い崖から少女が悲鳴を上げながら下へと落ちて行く所を目撃した僕は更にスピードを上げ間に合え間に合えと呪文のように呟きながら少女へと近付いていった。

「きゃあああ!」
「―――っ!」

間一髪、といったところだ。引力に逆らわず次第に地面へと近付いていく少女の身体を、僕は見事に受け止めて見せた。少女の体重に高い所から落ちた衝動がぷらすされ、ずしんとくる重みに僕は必死に耐えた。

「ヒーローさん!」
「ふう…よかった…」

ぱああと笑顔を見せた少女は予想通り、ギグルスだった。僕はため息混じりに呟くと彼女はなにやら満足気に微笑んだ。

「何故そんなに笑ってられるんだ。死ぬところだったんだぞ?」
「だって私、ヒーローさんが助けてくれるって信じてたもの」

笑顔を絶やさずそう言った彼女に僕はただ目を見開くばかりだった。何だか僕ばかりが焦って馬鹿みたいじゃないか。

「ありがとう、ヒーローさん」
「…どういたしまして。だけど、あそこは立ち入り禁止だし、危ないって分かってるだろ?」
「分かってるわよ?」
「じゃあ何で…」

危ないと分かっていて遊ぶ馬鹿が何処にいる。短い一日の命を大切にしようと思わないのか。

「だってピンチになったらヒーローさんが来てくれるじゃない」
「え?」
「これじゃあ理由にならない?」
「………いや、」

(理由にならない、わけじゃない…けど)

「とにかくだな!危険なことはしないように!これは約束だ!」
「ヒーローさんがキスしてくれるなら守ってあげてもいいかな」
「ば、ばか」
「冗談よ」

くすくすと可愛らしく笑う彼女を見て僕は顔を火照らすばかりだ。最近の子供はませてるなあなんて思いながら短いため息をついた。

「ね、また何かあったら助けてね」
「…今日みたいにわざとじゃなければ」
「ふふっ、もうしないから」
「それなら喜んで」

そんな他愛の無い会話をしていたらいつの間にか彼女の家の間近まで来ていた。何だか帰すのが惜しい。なんてヒーローらしかぬ考えを慌てて打ち消した。

「送ってくれてありがとう、ここまででいいわ」
「…そうか」

名残惜しくも彼女からゆっくり離れる。彼女は「また明日」と笑顔で告げた後、駆け足で家に入っていった。そんな後ろ姿をぼんやりと見つめながら僕はマントを靡かせ、地面を思い切り蹴った。ふわりと浮く身体を感じながら僕の脳内を霞めたのは彼女の笑顔。

「また明日、か」



(彼女の甲高い悲鳴が待ち遠しい)
(…なんて、ヒーローらしかぬことを)





***
わざと危険なことをしてヒーローの気を引くギグルスとか可愛いなあと思った結果がこれだよ!

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