タイトル名入力

□監禁生活一日目
1ページ/1ページ


ここは一体何処だろう。ぼんやりとする意識の中、僕は顔は動かさずに目だけをきょろきょろさせて辺りを見回す。手足がやけに重い。まるで何かに固定されているかのように。固定?嫌な考えばかりが脳内に過る。

「ヒーローさん」

聞き覚えのある甘ったるい声にハッとなる。そうだ、先程まで僕は彼女と二人きりでお茶をしていたのだ。やや強引だが彼女の家に誘われて他愛の無い話に花を咲かせていた。それからとてつもない眠気に襲われ、そこからの記憶は、全く無い。

「ヒーローさん?起きたの?」
「…ギグ、ルスくん?」

同席していた彼女は無事なのだろうか。遠い意識の中、彼女の姿を必死に探す。すると案外彼女が自分の近くにいることに気付いた。

「ギグ、ルスくん…に、逃げろ、」

ぐらつく視界、重い体。ここは危険だと察した僕は彼女に逃げるように指示した。それが一番安全で、正確な判断だと思ったからだ。

「ヒーローさん、なに言ってるの」
「……はっ?」

ばしん、乾いた音が響いたと同時に頬に激しい痛みが走った。状況を理解出来ずに目をぱちくりと瞬きさせる。目の前に広がっていたのは先程より何倍もはっきりした世界だった。

「ごめんね、まだ薬の効果が切れてなかったのね…でも大分状況を掴めてきたでしょう?」
「ギグルス、くん?」
「おはよ、ヒーローさん」

彼女の言葉の意味が、分からない。薬とは一体なんのことだ。多少軽くなった身体を動かすと後部でじゃり、と何かが掠れる鈍い音がした。

(――じゃり…?)

音の発信源を確認しようと後ろを向くと、僕は驚き、目を見開いた。そりゃ驚かない方がおかしい。自分の手足が鎖に繋がれてる状態なのだから。

「ギグルスくん、これは一体…?」
「ふふっ」

彼女にすがる思いで問うと可愛らしい笑みが向けられた。まるで天使だ。こんな危険な状況にも関わらず頬を緩めた。

「ほら、こうすればヒーローさんが私だけのものになるかなあーって」

前言撤回。ふざけるな。どこが天使だ。

「馬鹿なこと言ってないで早く外してくれないか」
「いや!だって外したらヒーローさん私から逃げちゃう」

反論も否定も出来ない。事実なのだから。
どうしたものかと苦笑いを浮かべる。

「ギグルスくん、僕はみんなを助けるヒーローなんだ、君だけのヒーローには生憎なれない」
「うん、分かってる」

おっとこれは予想外だ。解放されるんだ、思ってたより早かったと心の中でガッツポーズをする。

「ヒーローじゃなくても良い。一人の男性として、私の側に居てくれるだけで…」
「……そういうことか」
「?何か言った?」
「いっ、いや、」

期待しただけあって彼女の言葉にショックを受けた。そういえば、どうして無垢な少女の家に鎖なんて物騒な物が置いてあるのだろう?あえて聞かない、ていうか聞きたくないけど。

「ねえヒーローさん?どうして私がこんなことしてるか分かる?」
「……は?」
「…それはもちろんヒーローさんが好きだからよ」

こんな状況で告白されて嬉しい訳がない。嬉しさより恐怖や不安が何倍も上回っているからだ。それなのに目の前の彼女は「どう?びっくりした?」と言わんばかりにこちらを嬉しそうに見つめている。残念ながら僕は少女に監禁されて喜ぶ程マゾでも変態でも無いのだ。




監禁生活日目
(…早くも告白されてしまったが)
(これからの生活、一体どうなってしまうのだろう)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ