茨と鏡と虚無の世界 第二部

□第三十二話 壊
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*SIDE:鏡夜*


 紛いモノと言われた事が妙に引っかかった。

 自分の存在を否定されたような……自分がここにいる事が大きな間違いだと突きつけられたような気がして。

 気が付いたら目の前が真っ暗になって意識が遠くなって……また意識を取り戻した時にはあの破面……グリムジョー・ジャガージャックが虚圏へ還ろうとしていて……。


 籠っていた押し入れの襖が軽く叩かれて我に返った。

「……鏡夜、いる? あんた大丈夫? グリムジョーと戦ってから全然外に出てこようとしないじゃない。傷は織姫が治してくれたからもう平気なんでしょ? ちょっとあんたに聞きたい事があるんだけど……」

 襖を叩いてきたのは一華だった。

 聞きたい事があるというので、襖を開けて一華と顔を合わせた。

「ちょっ……あんたほんとに大丈夫? 顔真っ青よ」

「俺は平気だ。それで、俺に聞きたい事というのは何だ」

「ああ、そうだった忘れてた。一護が急にいなくなっちゃったのよ。あんたなら何か知ってるかと思ったんだけど……」

 ――一護が?

 そんな事全然気づかなかった。

 押し入れから出て部屋を見回してみると確かに一護の姿はどこにもない。

 どこへ行ったんだ、一護は。

「いや、俺もよく知らない……何か変わった様子は無かったのか?」

「昨日家に戻って来た時点では何も無かったと思うけど……っていうかそんなの、私よりあんたの方が詳しいんじゃないの? あんた一護と一緒の部屋にいるんだから」

 ……昨日、グリムジョーとの戦いが終わり家に戻って来てすぐに押し入れに籠ってしまったので、昨日の夜一護の様子がどんな風だったかは分からない……。

「……ひょっとして一護の事何も知らないの? 昨日戻って来てからずっと押し入れにこもってたの?」

「……」

「……らしくないわよ、そんな無気力なあんた。一体何があったのよ」

「……」

 話すかどうか躊躇いが生まれたが、恐る恐る口を開く事にした。

「紛いモノ、という言葉が妙に頭から離れないんだ……」

「それって、昨日グリムジョーがあんたに言ってた事よね。そんなの気にする事無いわよ、あんたはあんたじゃないの」

「……俺には、生前の記憶が無いんだ」

「……は?」

「だから、俺にとっては流魂街で拾われた頃からこれまでの出来事がすべてなんだ……あの紛いモノという一言でそのすべてを否定されたような気がして……」

 ……余計な事まで一華に話してしまった気がする。

 俺の事を話したところで一護の行方が分かる訳でもないのに……。

「……そうだったのね。あんたの様子がおかしい原因はそれか」

「……悪い、余計な事まで話した」

「別にいいわよ。鏡夜が珍しくしおらしくなっちゃった原因も分かったし。取り敢えずグリムジョーをぶん殴れるくらい強くならなくちゃね」

「強く……」

「私だって結構落ち込んでるのよ。ルキアも一護も鏡夜も必死に頑張ってるのに、あの場で私は何も出来なかった。だから強くならないと」

 ……どこまでも前向きだな、一華は。

 時折その前向きさに救われる。

「あんたも強くなりなさい。強くなって、あのグリムジョーをぶん殴って、もう一回言ってやるのよ。俺は紛いモノなんかじゃない! って」

「一華……」

 一華はどこか得意げに笑って、部屋を出て行った。

「私も一護を探しに行くわ。私の言葉で頭冷えたなら、あんたもとっととそんな湿っぽい部屋から出て一護を探しに行きなさいよ」

 そう言い残して。

 ……何をやっていたんだろうな、俺は。

 他人から言われた事でこんなにもうじうじと悩んで……こんな事をしている前にもっとするべき事があったはずだ。

 俺は急いで死神化して、一護の霊圧を追って外へ飛び出した。




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