終わりのメモリーズ

□第一話 事実は小説より奇なり
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「驚きになられるのも無理はありません。自分たちが亡くなられている未来を目の当たりにしてしまったのですから。でもアナタ方だけではありません。この通り世界はすっかり荒廃し、いまや見る影もありません」

 淡々とした、しかしどこか憂いを孕んだ声音で時間泥棒は話し続ける。

「この星の総人口の三割は死に絶え、四割は別の星へ移り住み、今やこの地球は完全に捨てられた星になってしまいました。あの方はこの無残な世界を変えるために、アナタをこの世界に呼び出したのです」

 あの方――時間泥棒を作るように依頼した奴だな。


「おい、あの方って誰だよ。俺たちの世界に一体何が起こったって言うんだよ!」

 銀時が時間泥棒の胸倉を掴んで揺さぶるが、時間泥棒は何も答えない。

「おい、何とか言えって――」

 銀時が更に激しく時間泥棒の身体を揺さぶった時だった。


 時間泥棒の頭部のカメラが外れて地面に転がっていったのだ。

「あ」

 俺と銀時は声を漏らす。

 カメラは転がり続け、ようやく止まったと思ったら偶然通りかかったバイクによってぐしゃり、と無残な音を立ててカメラが潰れる。


「あー……」

 無残になったカメラの残骸を見て、ただ俺たちは呆気に取られるばかりだった。

「どうやら私の役目は……ここまでのようです」

 時間泥棒の胴体部分から声がする。

「これまでって……えええええええ!? ちょっと待てええええ!」

 俺は時間泥棒に食って掛かった。

「いや、役目って何!? 今んとこ人を勝手にこんな所連れてきて勝手に壊れただけだけど! 嫌がらせしかししてないけど!」

 銀時も時間泥棒の胴体に向かって吠える。

「道案内は……しました。あとは……雪光様、銀時様……アナタ方次第です」

 時間泥棒が続けた。

「俺たち次第って、ほぼ丸投げじゃねえか! ステーキ食いに行ったら牛一頭出てきたみたいな状況だよ!」

「未来を変えるって一体どうすりゃいいんだよ! つーかお前壊れたら俺らどうやってもとの時代に帰るんだよ! このポンコツ!!」

 銀時と俺が立て続けに叫ぶ。

「コレを額に……」

 そんな事をやっているうちに時間泥棒が手を差し出してきた。

 その手の上には二つのハナクソみたいな大きさの黒い物体が乗っている。

「これは?」

 時間泥棒に向けて聞く。

「本来アナタ方はこの時代に存在してはならない異物。この時代の者と接触すれば世界に何が起こるかわかりません。このハナク……装置を額につけておけばアナタ方と認識される事はありません。全くの別人になれます」

「今ハナクソって言わなかった? ハナクソって言ったよね?」

「くれぐれも自分の周囲の人に素性を知られては、いけませんよ」

 銀時の突っ込みを無視して時間泥棒は続ける。

 その声も段々弱弱しくなっていった。

「まずは……源外様を……お探しください。力になってくれるはず……」

 時間泥棒は言う。

 やっぱり源外のジジイが時間泥棒を作った奴で間違いねえみてえだな。

「……こんな時代に俺ら二人で置いてくつもりなのか?」

 俺が時間泥棒に向けて尋ねた。

「雪光様、銀時様。アナタ方は二人きりではありませんよ。確かに世界は変わり果ててしまったけれども……。どんなに世界が……時代が変わろうと、変わらぬものも……ある」

 時間泥棒の声がか細くなっていった。


「きっとその手で、未来を……」


 時間泥棒はその言葉を最期に動かなくなってしまった。

「オイッ、しっかりしろ! オイッ! オイィィィィッ!!」

 銀時が時間泥棒の身体を揺さぶるが、全く時間泥棒は動かない。

「さ……最悪だ」

 時間泥棒の身体をその場に横たえて銀時は頭を抱えた。


 きっとその手で、未来を――。


 先ほどの時間泥棒の言葉が脳裏を過ぎる。


「……確かに時間泥棒は動かなくなっちまったけど……何とかなる。いや、何とかするんだ。俺たちで」

 頭を抱える銀時の両肩に手を置いた。

「雪光……」

「……心配すんな。何かあったら俺がお前を守ってやるからさ」

 銀時の両肩に手を置いたまま俺は銀時に笑いかけた。

 一瞬銀時が目を見開いて、俺の目を見る。

「……別に、オメーに守ってもらうほど俺弱くねーからな……」

 そういいながら銀時は心なしかほんの少し顔を赤くして、そっぽを向いてしまった。


 ――ほんと、可愛くない恋人だ。




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