緋い刄と地獄の業火
□第三章 潜入
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空座第一高等学校に残って怪我人を治療していた織姫が桜緒たちのいるクロサキ医院に到着した頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
先程までの激しい戦闘が嘘のように、空座町には静かな夜が訪れていた。
織姫は皆を集めて双天帰盾を発動してラグビーボールのような形の治療領域を広げ、全員の傷を同時に癒した。
皆の傷は回復したがチャドだけは傷が完治せず意識も戻らなかったので、破壊を免れたクロサキ医院の診察室へ運び込み、織姫が引き続き治療を行っている。
同じく意識が戻らない夏梨は一護が妹たちの部屋へ運び、ベッドに寝かせていた。
診察台に寝かされたチャドは淡く光る双天帰盾の治療領域に覆われている。
傷はもうほとんど塞がっていたが、意識は回復していない。
だが、少しずつ落ち着いた呼吸になってきていた。
それを確認した織姫が、安心したように息をつく。
「もう大丈夫。しばらくしたら意識も戻ると思う」
織姫は診察室に待機していた桜緒たちに告げた。
「良かった……井上も少し休めよ。顔色悪ぃぜ?」
桜緒がキャスターのついた診察用の丸椅子を織姫のもとまで転がした。
「ありがとう、赤城くん」
そう笑う織姫の顔色は、確かに桜緒の言う通り悪かった。
短時間で力を使いすぎているらしい。
「で、てめぇは何者だ?」
壁際のパイプ椅子に座って事態を静観している黒刀に向けて恋次が言った。
「さっきの鎖……地獄の鎖だな?」
ルキアが黒刀の前に立つ。
「何だって!?」
壁に凭れていた雨竜が一歩前に出て、まじまじと黒刀を見た。
「あぁ、そうだ」
平然と黒刀は答える。
「俺の名は黒刀。見ての通り、咎人だ」
黒刀が上げて見せた左手首には、赤錆色の枷と鎖がついていた。
「お前も、あの黒マントの奴らと一緒……って訳かよ?」
チャドの様子を見ていた桜緒が黒刀を見て言った。
「そうだ」
黒刀が頷いた。
「なぜ咎人が我らの味方をする?」
今度はルキアが聞いた。
「味方ァ?」
黒刀が眉をひそめ、首を横に振った。
「それはちょっと違うな。俺はあんたらの味方をしてる訳じゃねぇ。あいつらが気に食わねぇだけだ」
「そんなことはどうでもいい!」
話を遮って一護が黒刀に詰め寄った。
「てめぇが咎人なら、地獄への行き方を知ってるんだろ!? だったら俺を地獄へ連れてけ! でないと遊子が……!」
そこまで言って、一護が言葉を飲み込んだ。
「死ぬだろうな」
黒刀は一護が飲み込んだ言葉をあっさりと述べた。
「……っ!」
一護が唇を噛み締める。
「遊子……」
桜緒の脳裏に遊子の笑顔が浮かんだ。