Novel-bullet 2(CP)

□午後の紅茶は下僕と共に
1ページ/2ページ



 ある日の午後。

 僕が食堂へ行くと、そこには珍しく彼の姿があった。

「あ……十神くん」

 僕は彼――十神白夜に声をかけながら、十神くんのもとへ近づく。

「……」

 十神は読書に夢中で、僕の声には気づいていないようだ。いや、彼の事だから、意図的に気づいていないフリをしているのかもしれないが。


 僕が大分十神くんのもとへ近づいた、その時。


「おい、苗木」

 不意に十神くんは顔をあげ、僕の方を向いた。やはり、僕の存在には気づいていたようだ。

「な、何?」

「ちょうどいい、今すぐ紅茶を持ってこい。三分以内だ」

 十神くんはそれを告げて、再び本に視線を戻した。彼の言うことは大多数が本気だ。取りあえず僕は食堂に隣接した厨房に行き、紅茶を作り始めた。



 紅茶を作り終え、僕は十神くんのもとに戻る。手には紅茶の入ったポットと、砂糖とミルクが入った小瓶二つ。それから空の白いカップが載った黒いトレイを持っていた。


「はい、お待たせ」

 僕はトレイを食堂のテーブルに置き、十神くんの前にポットなどを並べ始めた。

「遅いぞ苗木、一分の遅刻だ」

 十神くんが読んでいた本を閉じた。そして十神くんは、空の白いカップに目を向ける。

「……苗木。なぜカップが二つなんだ?」

 十神くんがそう尋ねてきた。


 そう。トレイに載せて持ってきた白いカップは、二つだった。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ