Novel-bullet 2(CP)
□許されざるその腕で
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俺は平和島静雄。警視庁捜査一課の強行犯係四班の班長を勤める警部だ。
俺には、絶対に他人に知られてはいけない秘密がある。
誰にも、知られてはいけない秘密が。それは――……。
法の罰を逃れた人間を、この手で裁いていることだ。
ある人物と結託して、俺は数年前からその"裁き"を行っていた。
……そして今夜も。
俺は、たった今裁きを終えたところだった。
今回の俺の裁きのターゲットは、秘密裏に精神鑑定の結果を捏造させ、ある凶悪犯を釈放に導いた弁護士。
俺は今夜もまたその弁護士を、その弁護士の事務所で裁き終えた。
俺の"裁き"は、ターゲットを麻酔銃で眠らせ、結託している人物のもとへ運ぶこと。後にその結託している人物はターゲットをどこかへ運んでいるようだが、どこに運んでいるかは俺も知らなかった。
麻酔銃によって眠った弁護士と俺の息遣いだけが、静かで暗い弁護士の事務所に響く。
「……運ぶか」
一人呟き、弁護士のもとに近づいたその時だった。
「静雄さん」
不意に背後から、俺を呼ぶ若い男の声がした。
俺は男の声の方を向く。振り向くと、そこには予想通りの人物がいた。
警視庁鑑識課の、俺よりも少し若い男――折原臨也だった。
この男とも、最近になって一緒に裁きを行うようになった。俺はあまり巻き込みたくはなかったが、本人が聞かなかったのだ。
「……折原か」
「臨也でいいって、言ったじゃない」
折原は愚痴を吐きながら俺の顔を見つめる。
「何だ」
視線に耐えきれずに俺が口を開くと、折原はこう言った。
「……静雄さん、泣きそうな顔してるよ」
折原の言葉に、少なからず動揺を覚えた。
けれどもっとも動揺したのは、突然折原が俺を抱き締めたことだった。
「……こんな奴の為に静雄さんが傷つくことなんて無いよ」
俺を抱き締めながら、折原は告げた。
この男は、俺が傷ついていると考えたのだろうか。人を裁くことへの迷いなんて、痛みなんて、もう振り切った筈なのに。
それでも、まだ。