宵々饗宴

□吸血鬼共の日常
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 吸血鬼とは、人の血を喰らい永遠の命を持つ人の姿をした悪魔、ないし魔物である。彼らは人を誘惑し、動物を操る。人間の何倍もの腕力を持ち、空を飛ぶことができる。彼らにかかれば自然操ることも容易であり、人間がその力を恐れたことは言うまでもないであろう。
 時が流れ、現代において吸血鬼の存在を信じている人間はほとんどいない。いまや吸血鬼は、ユニコーンやドラゴンと同じような【お伽噺の中の生き物】でしかないのだ。
 しかし、吸血鬼は実在する。彼らには人間と共存する者、極力関わらない者、様々だが多少なりとも人間社会にかかわり、生きている。


 8月某日
 真夏の厳しい日差しの中にもかかわらず、とある店の前には長蛇の列があった。皆新発売の商品が目当てである。

 「あづい・・・」

 そのなか一人の若者が滝の汗を流しながら並んでいた。

 「あづ・・・あづづ・・・」

 当然並んでいる全員暑い。だがその若者はとりわけ大量の汗が噴き出ており、顔色も土気色になっている。満身創痍であった。なんとか日差しをあびぬようにとパーカーのフードを深くまでかぶっているが、この気温では無駄である。

 「ぐぅ・・あぐ・・・・」

 呻いている。

 「んあ・・新作・・・新作のためならこれくらい・・・ほげええ・・・」
 
 新商品への執着が彼をここまで支えてくれたがもう限界だ。これ以上は命が危険なレベルだ。

そのとき!

 「お待たせいたしました!暑い中ありがとうございます。ご注文をお伺いします。」

 彼の順番が回ってきたのだ。彼は勝利したのだ。暑さ、紫外線、そして己に。世界が祝福しているように感じた。さっきまでの疲労はどこへやら、若者は勝ち誇ったように答えた。

 「夏の新作、しっとりふわふわフレッシュブラッドオレンジのロールケーキ、本場ダージリン使用プロのこだわりシフォン、厳選カカオマスのほろにがガトーショコラ、北海道産濃厚ゴルゴンゾーラたっぷりベイクドチーズケーキで!!」
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