遠回りの恋
□秀也の本気
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晃輝が入浴を終えた時、秀也はもう眠りについていた。
「寝たんだ、もう」
晃輝は確認と興味の意味で、客間の戸を開けた。かつて秀也と離れる日の前夜のように、足音を忍ばせて、ゆっくりとベッドの横に行く。
……久しぶりだな。こういう風に秀也の顔をちゃんと見るの。あの日以来だ……。
秀也は睫毛が長くて、顔の彫りが深い。そして運動部に入っていた為に多少焼けた肌。それらを間近で見るのは本当に久しぶりだった。
晃輝は吸い寄せられるように、ベッドの縁に手をついて顔を近付けていく。秀也の寝息が自分にかかるのではないかと思うくらい近くなって、そこでようやく晃輝は我に帰った。
「っ、何やってたんだ、俺……」
前の罪悪感の二の舞は御免だ。
晃輝は思い直して立ち去ろうとした。
だがその時、後ろから腕を引っ張られた。当然バランスを崩して、倒れ込んだ。
「ぅわ」
晃輝の視界には、秀也の顔しか映らない。
「お前、起きてっ……ん!」
反論しようとした所を、秀也の口でもって、口を塞がれた。
一瞬、たちの悪い夢かと思った。
しかし夢ではなく現実なのだと、秀也の舌が唇をなぞってきて教えてくる。
「…ん、ぅ…」
腕で押してみるが、そんな抵抗なんて形ばかりで意味がなかった。
力の強さも、そして抵抗する意志の強さも。
やがて、晃輝の頭がぼーっとしてきた頃にようやく秀也の唇が離れた。
「……なん、で?」
虚ろな瞳で、晃輝は秀也を見上げて尋ねた。
「同じことをしたんだよ」
よく、意味が分からなかった。
「お前も、結婚式の前の日に俺にしたよな?……それとも忘れた?」
「っ」
結婚式の前の日。
それは、初めて晃輝が秀也に手を出した日だった。
一般的には、たかがキスなんて大したことないかもしれないけれど、晃輝にはとてつもない事だった。
今まで我慢してきただけに、すごい勇気を必要するものだった。
あの時の自分の覚悟、よく覚えている。忘れるわけがない。
「なんでした?興味本意?」
「んなわけない!」
からかうように聞いてきた秀也に、自分の本気を馬鹿にされたような気がして晃輝は強く言い返した。
「ふぅん。覚えてはいるわけか」
秀也の答えに、しまったと思った。
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