秘める恋
□揺れる想い
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家に連絡したからか、唯人の母親が何か言ってくることはなかった。
ただ、次の朝、僚とはやっぱり気まずかった。
昨日あんなことがあったからか、僚も何故か様子が変で、亜弥も今朝は一緒だったけど二人の間に会話は少なかった。
そろそろ、こんな風に朝一緒に行くのも潮時かもしれないと、唯人は思った。
「…兄さん」
「なに?」
周りから見たら不自然になるかもしれない。不思議に思われるかもしれない。
でも、昨日言われた。
従弟として、大切で、好きなのだと。
そう告げられた時点で、唯人がするべき行動は決まっていた。
忘れられないとか、唯人の気持ちは関係ない。僚の幸せを願わなければ。
バスを待っている間、唯人は隣にいた僚に話しかけた。
「俺、そろそろ一人で朝行くね」
声、震えてないかな。
ちゃんと、笑えてるかな。
「どうしたんだよ、急に」
僚は狼狽えたような反応を示した。
何を、そんなに驚いてるの?
兄さんにちゃんとフラれる前から、考えてたことなんだよ?
「急にじゃないよ。結構前から考えてた」
「なんでだよ」
「だって、亜弥さんに申し訳無いよ。恋人と一緒の時間を、従弟の俺が邪魔するなんて」
「邪魔なんて、そんな事」
僚は、道路に体を向けていた唯人の肩を掴んだ。
「ダメだよ、兄さん」
そんな風に焦っている僚に対して、唯人は静かに首を横に振った。
「従弟より、恋人を大切にしないと」
目を見開く僚に「ね?」と唯人は切なげに微笑んだ。
それは僚にとって見たことない程に儚くて、でも今まで見た誰よりも綺麗だった。