好きな人
□〜戸惑い〜
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姉の紗希が連れて来た。
結婚を前提に、今付き合っている相手を。
楽しみにしてた。姉さんの好きな人なら、なんでも賛成だった。
姉さんが幸せなら、それで良いと思ってた。
なのに、どうして?
なんで……あなたなんですか?
「初めまして。紗希さんと結婚を前提にお付き合いさせて頂いている、吉瀬拓巳と云います」
俺の好きなあなたが、どうして今、俺の目の前にいるんですか?
差し延べられる手に、瑠は一瞬受け取るのを躊躇う。
でもすぐに、自分の立場と吉瀬の位置関係を思い出した。
「初めまして。弟の瑠です」
握った手は、よく知った吉瀬の体温だった。聞きなれた声に見慣れた仕草。瑠がよく知っている、吉瀬のもの。
でも、今の吉瀬は違う。
俺の好きな、優しくて大人で、少し意地悪な人ではない。
唯一の家族、大切な姉の、夫になるかもしれない人。
ちゃんとしないと。わきまえないと。
もう、混乱してはダメだ。
旅行をしたようなあの仲には、もう戻れない。
「姉さんの好きな人の拓巳さんて、カッコイイね」
変な感じが、残ってる。
自分の声が、知らない人の声みたいに聞こえる。
その理由は分かってるんだ。
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