秘める恋
□秘める想い
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僚と一緒に向かっていたバス停。そこに丁度良く唯人の乗るバスが来た。
これ以上一緒にいると、隠して伝えた言葉や表情から本心が漏れだしそうで…。
「じゃあ兄さん。俺、もう行くね」
到着したバスに駆け込んだ。
「いってらっしゃい、唯人。気を付けてね」
手を振って、見送ってくれる僚。その笑顔が優しくて、眩しくて、僅かに遮るように唯人も手を振る。
「うん。兄さんもね」
「迎えがいる時、連絡して。今日は俺、早いから」
バスの扉が閉まる。唯人は手を振りながら“ありがとう”と口パクで伝えた。僚はそれに気付いたのか、とびきりの笑顔で微笑んだ。
「はぁ」
僚の姿が見えなくなり、最初に口から漏れたのは溜め息だった。
「なーに暗い顔してんの?」
「重っ」
突然肩にのし掛かった人の重さに、唯人は吊革を持つ手に力を加えた。
「…達也か」
こんな事をする知り合いなんて、一人しかいない。
唯人は眉間に皺を寄せた。
「おはよー、唯人」
手をヒラヒラとさせる。公共の場所で抱き付いてくるの、止めて欲しい。
「重いし、人の目もあるから離れろ」
「せっかく元気付けようとしたのに…」
「いつもしてくるくせに…。それに、俺は元気だ」
「嘘つけ。大きい溜め息をついてたくせに」
重さから解放されて、唯人は達也の話を耳が痛くなるような気持ちで聞いた。
「どうせ原因は僚さんだろ」
今更ながら、達也は唯人の一番仲の良い友達だ。親友みたいな存在。
達也が、もろ体育会系の見た目に反して察しの良い性格のせいか、必然的に唯人の僚に対する気持ちも知っている。