秘める恋
□戻せない想い
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唯人は苦笑いしながら、遠慮がちに誘いを断る。それでも誘いをかけてくる人がいて、本当に達也を誘わなかった事を後悔した。
「誰か探してるの?」
「待ち合わせ?」
問われる質問に、なんとか答えようと必死になる。
その姿が、ますます人を集めることになっているが、唯人は知らない。
「人を、探してるんです」
人を引き連れて歩く事が出来ず、唯人は立ち止まって僚を探す。
僚には行くことを伝えていない。案内すると言い出すのが目に見えていたから。絶対、僚と一緒だと注目を浴びる。それは流石に嫌だった。
それに、また亜弥に何か言われそうな気がした。
「人?家族?友達?」
誰が質問してるのか分からない。でも、唯人は律儀に答える。
「従兄なんです」
「従兄?名前は?」
「名前は……あっ」
唯人が言おうとしたその時、人の群れから僅かに僚の姿が見えた。
「…?あの人?」
唯人の反応に気付いて、周りにいた女の人達が視線を追った。
「「「あ〜、僚先輩」」」
口々に、僚の名前が出た。
そして、違う人の名前も聞こえた。
「「亜弥さんと美男美女のカップルよね」」
「ほら、隣にいるあの人。やっぱり亜弥さん綺麗よね〜」
「…」
やっぱり、来たくなかった。
そこにいるのは、正に美男美女のカップルの僚と亜弥。仲良く腕を組んで歩いている。
唯人は、その二人から視線を外した。
「どうかしたの?もしかして従兄弟って僚先輩のこと?」
「…いえ、その」
言えない。
だって、あの中に入りたくない。二人の空間に入りたくない。
その時、亜弥が僚に何かを耳打ちした。僚はそれを聞いて苦笑いしている。
そして……。
「ぁ…」
小さな歓声が上がった。みんな、あの二人を見ていたらしい。それは、唯人も例外ではなくて…。
だから、見てしまった。
僚が、亜弥にキスした所。
「見た?さっきの」
「見た見た!仲良いー」
「ラブラブだよね」
周りから聞こえる声は、僚には聞こえない。ただ、脳裏に浮かぶ一瞬の映像だけが離れない。
僚が亜弥の首に手を回して、触れ合うだけのキス。微笑みあう二人の絵。
もう、無理だった。
もう、平気な顔して僚に会いにいけない。
だって、なんて声をかければ良い?見て見ぬフリをする?それとも、堂々と見たことにする?
どちらも、出来ない。
苦しい。息が出来ないのかと思うほど、苦しい。
「どうかしたの?」
心配してくれる人の声。声のした方を見た。
「知り合いだったの?」
「…」
ひたすら、首を横に振る。
「大丈夫?」
「…ちょっと気分が、悪いだけ、です」
「平気?良かったら、送るよ?」
清楚な服装をした女の人。本当に心配してくれている表情は、悪い人には見えなかった。
「…近くまで、良いですか?」
唯人は、弱々しく笑う。
「うん、良いよ」
唯人がそうして女の人に支えられて帰る所を、亜弥が見ていたことは誰も気付かなかった。