秘める恋
□戻せない想い
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自分がこんなに、精神的にも体力的にも弱いとは思ってなかった。
唯人はあの後、途中まで送ってくれた親切な女の人と別れて、そこから自力で帰ってきて家にいる。
簡単に達也にメールで説明をすると、すぐにベッドにふせた。
寝たくて、夢の中でくらい忘れたくて……。
でも、無理だった。
現実から逃避するのさえ、許されなかった。
ベッドの縁に、僚が座っていた。
「ゴメン、起こした?」
いや、眠りに落ちる寸前だった。
「平気」
そうとは言えず、唯人は身体を起こす。
「体調、平気?熱でもあるのか?」
僚は、唯人の額に冷たい手を当てた。
「大丈夫だよ」
「ねぇ唯人、聞いても良い?」
「ん、なに?」
冷たい手に浸りながら、僚は聞く。
「今日の大学祭に来てたって本当?」
閉じていた瞳を、大きく見開いてしまった。
「…なんで?」
「亜弥が見たって」
「…そうなんだ。すぐに帰ったから、分からなかった」
「俺、気付かなかった」
それで、良い。
気付かれなくて、心底良かったと思う。
「女の人に送ってもらってたって、本当?」
よりにもよって、そこを見られていたのか。
「本当だよ」
嘘をつく理由はなかった。それに、下手に嘘をついて、今より悪い状況にしたくなかった。