秘める恋

□揺れる想い
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「…それが、唯人の願い?」

僚は手を離した。

どうしてか、たかが朝一緒に行かないと言っただけに大事になっている気がした。


「…そうだよ」


願いかと聞かれたら、そうだろう。

「ほら兄さん、亜弥さんが待ってるよ」

亜弥は遠くに離れて、唯人と僚を見守っていた。

唯人は、僚の背中を軽く押して亜弥の元へ行くように促した。

「…唯人」

「じゃあ兄さん、いってらっしゃい」



俺は、ちゃんと笑顔で兄さんを見送れただろうか。


涙を、流していないだろうか。








教室に入ると、背中が、見えた。

寂しくて、ただその背中を抱き締めた。


「――…達也」


「っ、唯人?」

突然のそれに、達也は後ろを振り向くことすら出来ない。

「どうしたんだよ」

「俺、頑張った」

「…うん」

何を、なんて聞かずに、達也は後ろから回っている唯人の腕に手を添えた。

「兄さんに、朝はもう一人で行くって伝えた」

「うん」

「ちゃんと、笑えた」

「うん」

「俺、頑張ったよ」

「お疲れ」

「……うん」

達也は、気付いていた。


だから、それを実行した。


「もう、泣いてもいいぞ」


その一言で、唯人の涙腺が一気に緩んだ。


「っ…達也…」

「よく頑張ったな」


達也は、唯人の泣き顔を誰にも見られないように自分の身体で隠した。
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