秘める恋

□すれ違う想い
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「――…もう遅いよ、兄さん」


力なく下ろした手で、唯人は僚をそっと離した。




「それを言うのは、今じゃないよ」



気が付いたら、泣いていた。

拭くのもなんだか嫌で、唯人はそのまま続ける。

「俺、もう兄さんを選べないんだ」

「…」

「好きだよ、兄さん。大好きだよ」

「なら―」

「ううん、ダメ。だって、兄さんの好きと、俺の好きは、もう違うから」

なんでかな、兄さん。

なんでこんなにも俺達は、通じ合えないんだろう。


「なんで兄さん、もっと早く言ってくれなかったの?」

「…唯人」

「ずっとずっと、好きだった。自分が嫌になるくらいに、兄さんのことばかり考えてた。大好きだった」

もう少し早く言ってもらえてたら、迷わずに兄さんを選べたのかな。

それとも、やっぱり今みたいに思い浮かぶ人がいるのかな。






「好きな人、いるんだ」




辛い時に傍にいてくれた。

自分より、俺の意思を尊重してくれた。

いつだって、味方をしてくれた。

欲しい時にいてくれて、欲しい言葉をくれた。

だから、好きになれた。



「アイツか?達也か?」

「俺の恋人なんだ。アイツなんて呼ばないで」

肩に乗せられた手を払った。

「…恋人?」


僚の戸惑いが、手に取るように分かる。

まるで、自分が僚から恋人が出来たと報告を受けた時と同じ顔をしてるから。

「兄さん、ごめんなさい。兄さんのこと、ずっと好きでいられなくてごめんなさい」

溢れる涙が、床を濡らし水溜まりを作る。

「俺より、亜弥さんを好きになって…?兄さんの、彼女なんだから」

「なんで、」

「大切にしてあげて?不安にさせないで?」

亜弥さん、良い人だから。

「兄さんを好きでいる事を諦めた俺なんか、好きになっちゃダメだよ…」

自分は、諦めたのだ。

傍にいて、耐えることが出来なかった意気地無しなのだ。

「ゴメン、兄さん」


自分が兄さんをふる資格なんてない。

本当は、自分が兄さんからフラれるはずだった。


唯人は払ってしまった僚の手を握り、そして離した。



荷物が入ったままの鞄を持って、僚を部屋に残して出た。


逃げたかった。


あんな空気、耐えられなかった。






携帯の通話記録を開く。

探さずに出てくる名前を、選ぶ。

ダイヤル音が聞こえて、すぐに繋がった。


『どうした?』





「――…会いたい」




唯人は、玄関の外でうずくまった。
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