幼なじみ

□烈風の空 上
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「ねぇ陽、一緒に帰ろう?」

千歳が、すっかり慣れたハグと一緒に聞いてきた。

「ごめん。今日は先約があってさ」

陽は、全く動じずに答える。

毎日、何度もされたらいい加減に慣れる。

「先約?」

「うん。怜と帰るんだ」

「怜って、会計の人?」

「うん、そう。よく知ってるね」

「さすがに、それくらい分かるよ」

千歳は陽の肩に顔を埋める。

「ちょ、くすぐったいよ」

「いいじゃん、別に」

「そろそろ帰る支度もしたいし」

怜を迎えに行く予定だし。


陽は強引に千歳を引き離す。

「じゃあさ、明日は一緒に帰ろ?」

千歳は、子犬のような目で陽に言う。

この目は、幼稚園の頃みたいで弱いんだよな……。


「じゃあ、明日ね?」

「やった!」

何が、そんなに嬉しいんだろう。

知ってるのに。

千歳に色んな人が言い寄ってきてること。

部活からの誘いもたくさんあることも。

でも、その全部を、千歳は断っている。

その理由を、大野から聞いて驚いた。


『嫌だよ。だって陽と一緒にいる時間が減るじゃん』


なんで、俺なんだろう。

俺は、みんなみたいに、立派な何かを持ってるわけじゃないのに…。

「また明日ね、陽」

千歳は笑顔で手を振る。

「うん、また明日ね」

陽もそれに笑顔で応える。

教室を出て、少し寒い空気に当たり、震えた。

「怜を、迎えにいかなくちゃ」



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