幼なじみ

□烈風の空 下
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「気のせいだったのかな」

冷たい、石のベンチに座って陽は呟く。

手には白いケータイ。

ケータイは開かれていて、画面には電話帳が映っている。

決定を押せば相手に繋がる状態のまま、陽の指はボタンから動かない。

繋がる相手の名前は、千歳。

聞いてもらいたかった。

自分でも分からないもやもやを、疑問を。

スッキリ出来なくても、ただ聞いて欲しかった。

でも、そんな宛のない話を、呼び出して聞かせるのは、千歳に悪い気もする。

口では大丈夫と言ってても、実際にあったら困るかもしれないから。

陽は、そんな不安を抱えて、千歳に電話をかけないままでいた。

「もう、帰ろうかな」

きっとここにいても、発信ボタンを押す勇気は出てこない気がする。

それなら、寒い外にいるよりさっさと家に帰った方が良い。

陽は決めて、立ち上がって荷物を持つ。



「陽?」


意を決した瞬間に、目の前には千歳の姿があった。

「なんで?」

「ん〜。ちょっと来てみただけだよ」

「そんな…」

どんな偶然だよ……。

「大丈夫?」

「な、なんのこと?」

「陽ーっ」

「わっ」

意味深な質問の後、急に千歳は抱きついてきた。

「急に、なんなの?」

「抱きしめてあげた」

「意味、分かんないよ」

抱きしめて欲しいなんて、思ってないよ?



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