好きな人
□〜出会い〜
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自分より目線の低い姉、紗季(さき)が鞄の中からハンカチを出して髪を拭こうとする。
「姉さん、もういいよ」
拭いてくれる手を制止する。
「なんで傘を買わなかったの?」
紗季は瑠の手を引いて建物に入る。
「ん〜。なんか、打たれていたかったから」
「もうっ」
紗季は呆れたように頬を膨らませる。
瑠の顔も幼い方かもしれないが、紗季はそれ以上に幼い。
実年齢は25歳ほどなのに、スーツを着ていなければ大学生に見えるほど。下手したら、高校生に見られることもある。
本人はすごく気にしているらしく、大人っぽい服を好んで切るが、それがよけいに幼い顔を際立たせる。
「わかったから、ジャケット脱いだら?雨に濡れちゃったんだし」
「そうする」
瑠は大人しく、学校の制服のジャケットを脱ぐ。
下にセーターなどは着ていなかった為、ワイシャツにネクタイというシンプルな形になる。
「なんかさ、服買お?」
「え、いいよ。別に」
「いいの。今日は給料日なの。それに、服とかあんまり持ってないんだから。プレゼント」
嬉しそうに紗季が言うから、瑠は強く断れない。
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