好きな人
□〜戸惑い〜
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「でしょ?私が言ったとおりだったでしょ?」
「うん。俺もそう思うよ」
心から言ってない。
紗希の彼氏が吉瀬だと、本当に認めていない。いや……認めたくないんだ。
瑠のこの気持ちを、吉瀬は知っているのだろうか。
吉瀬は、知っているのだろうか。
喫茶店で話すようになった相手が、旅行に一緒に出かけた相手が、自分の彼女の弟だということを。
「そういうことを言ってもらえると嬉しいな」
もう、やめて……。
瑠は、切実に願う。
もう聞きたくない。
俺の好きな声で、そんなことを言わないで……。
俺の姉さんと、話さないで…。
「ずっと言ってたんですよ?拓巳さんのこと」
「えー、恥ずかしいな、それは……」
「何で?実際瑠の期待も裏切ってなかったんだから良いじゃないですか」
「う〜ん。そうなんだけどね…?」
止めて、姉さん。話さないで…。
瑠は、やっと分かった。
自分は何を願っているのか。
吉瀬が、自分以外の相手と仲良くしている姿を見たくないのだ。
捕られたくない。
知ってほしくない。
「…はは…。なんだ…」
自分がこんなに欲深いなんて。
こんなに、人に捕られたくない程、吉瀬のことが好きだったなんて…。
今、初めてこの醜い感情を知ってしまった。
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