宝物

□階様より
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静かだ。
隣に誰も居ないということがこんなにも静かだと思っていなかった。いつも横槍が入っておちおち雑誌も読めない分、この時ばかりは存分に読んでやろうと思い立った。まではよかったのだが、ページを捲る指が思うように進まない。文字が滑る。色付きの写真でさえ全てが無表情に見えてきた。
これでは駄目だ。そう思うと手元の雑誌から興味が失せていった。限定品も新作も、どれも皆同じに見えてくる。輪郭のはっきりしない記号。目が疲れる。
顔を上げると部屋の片隅で丸まっている背中が視界に入った。この数時間ずっと、ああやっているままだ。

声を掛けてみるべきか?
ならば何と言うべきであるのか。

邪魔だと言った口から戻ってこいと伝えるには、どんな言葉がいいのだろう。



それはとても簡単なひとこと
(「ごめんね」なんて、わからない!)





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