小説(the first one weekシリーズ)

□White Love 〜the first one week〜
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俺にとって、塔矢は、人生で初めてできた恋人だ。

塔矢のことを好きだと意識したのは一年ちょっと前だけど、でも小学生の頃から、あいつに初めて出会った時から、俺はずっと塔矢を意識してきたし、本当はあの頃から俺は塔矢が好きだったんだと今なら確信できる。

すったもんだはあったけれど、お互い両想いであることを確認できて、恋人同士になれてからまだ数週間…。

俺達はつきあい始めたばかりのカップルだぞ?

恋人同士になって初めての塔矢の誕生日なんだぞ?

誕生日とかクリスマスとかバレンタインって、恋人同士にとっては大事なイベントだし、ようやく恋人になれた塔矢と二人きりで、初めての誕生日をロマンティックな一日にしたいと、俺なりに思ってたのに…。



「本当にごめん、進藤…」
目前で申し訳なさそうに謝り続ける塔矢に、俺はひきつる顔を押さえきれずに、それでも絞り出すような声で、
「…し、しゃあないじゃん…塔矢先生が帰国するんなら…」
そう返すのがやっとだった。



5日後に17歳になる息子の誕生日を家族で祝う為、わざわざ中国から帰国する両親をないがしろにするわけにはいかないだろう。
聞くところによると塔矢の家は、毎年12月14日は、家族三人水入らずで一人息子の誕生日祝いをしてきたらしいし。

…ってゆーか17歳だぞ?
小学生じゃあるまいし。

俺だって子供の頃は、誕生日にお母さんの手作りケーキを囲んで、お父さんと三人でお祝いしてもらったりしたけど、今はもうそんなホームパーティーみたいなことやってねえよ。
今年の9月20日だって、和谷のアパートで伊角さんや本田さん達が誕生日祝いしてくれて、朝まで酒飲んでどんちゃん騒ぎしてた。

17歳ともなれば、友達や恋人と遊びに行くのが普通じゃねえの?
いい歳して家族でお祝いって…。

「僕もまさか、中国からわざわざ帰国してくるとは思わなかったんだ。今まではそりゃ家族で誕生日を過ごしてきたけど、今年はお父さんも中国のリーグ戦で頑張ってるみたいだし、僕の誕生日ぐらいでまさか帰国するなんて…」
「いいじゃん。わざわざ帰ってきてくれる、いい両親だと思うぜ?」
内心の苛立ちを隠して、俺は必死で笑顔を作っていた。

塔矢は心底、俺に対して申し訳ないと思ってるだろうし、そんな塔矢に、俺の内心の腹立ちをぶつけてしまうと塔矢が余計に可哀想だ。

俺は塔矢と恋人になれた時に、塔矢を守れる男になりたいって思った。

だから、俺のこんな独占欲で塔矢を苦しめたりしちゃいけない。
大人の男らしく、どっしり構えて、こんなことぐらい余裕で受け止めてやらなきゃならない。
受け止めてやらなきゃ…。


無理だよぉ…。
だって俺もまだ17歳のガキだもん。

初めての恋人、初めての誕生日、夢見てきたシチュエーションがダメになって、落ち込まないわけにはいかないってば…。


「進藤…?」
悶々としている俺の表情を、不安気に伺ってくる塔矢。
ごめんな…。
イライラしてるの、顔に出ちゃってるよな?
だって俺、塔矢の生まれてきた記念日に、世界で一番大切な日に、塔矢を俺一人で独占したかったんだもん。
それが俺の夢だったもん。
ようやく恋人になれて、夢が叶うと思ってたのに…。


「そんな顔すんなって。俺は平気だよ。お前とはいつでも会えるんだし…」
「だって…」
「じゃあ誕生日の前日か翌日か…どっちか時間作ってくれよ。その時にお祝いするから…」
すっかり冷めた珈琲をすすりながらの俺の提案に、塔矢はスケジュール帳を確認しながら、
「じゃあ13日の夕方からなら…」
と言ってくれた。
誕生日の前日かあ…。
塔矢先生達が帰ってきてるならそんなに夜遅くまでは無理だし、塔矢が17歳になる瞬間に立ち合うのは諦めなきゃな…。

あー…仕方ないこととは言え、やっぱり落ち込んでしまうよなあ…。




気まずい空気のまま喫茶店を出て、いつも通り、塔矢の家まで送っていった。
俺はやっぱりかなり落ち込んでいて…、いや、ちょっとイライラしてたかも知れない。
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