小説(the first one weekシリーズ)

□White Love 〜the first one week〜
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それでも自分の中のそういう負の感情を顔に出さないよう頑張ったつもりなんだけど、それが余計に空気をギクシャクしたものにしたらしい。

「進藤、上がっていかないか?」
塔矢の家の外門の前まで来て、塔矢が縋るような瞳で俺を誘ってきた。
こんな時間に家に上がらせてもらったりしたら、やること決まってんじゃん。
一局打とうか、って空気でもないし。
「…だってお前、明日は仕事じゃないか」
「僕なら大丈夫だから、だから進藤…」
不安気で必死な塔矢の表情。
俺の機嫌を取ろうとする塔矢の姿なんて初めて見た。
うーん…。
きっと今の塔矢なら、ちょっとエッチなリクエストとかしても、俺の機嫌を取る為に聞いてくれたりするんだろうなあ…。
でも、だからこそ。

「…いや、やっぱり帰るよ…」
「進藤…!」
塔矢の顔が泣きそうに歪められる。
「俺は大丈夫だから。…そりゃちょっと落ち込んでるけど、でも仕方ないことだし…」
それに、こんな表情している塔矢を抱くなんて、まるで塔矢の弱みにつけ込んでるみたいだ。
そんなことしたら俺自身が自己嫌悪で落ち込んでしまう。

こんな空気、作りたくないのになあ…。
塔矢に責任のないことで、塔矢に負い目なんか持ってもらいたくない。
なんで俺はもっと大人っぽくどっしり構えてられないんだろう…。

「またすぐ会えるから…」
俺がちょっと顔を近づけると、塔矢はすぐに目を閉じてくれた。
今までの塔矢なら、外でのキスなんか絶対応じてくれなかったけど、黙って俺の唇を受けとめてくれている。
やっぱり、俺に対して負い目があるからだろうなあ…。

触れ合うだけのキスをして、俺は怒ってないから、と塔矢に伝えたつもりだけど。
「じゃあ、おやすみ」
俺を見送る塔矢の表情がまた悲しそうに歪められる。



ああ…。
二人っきりの誕生日が駄目になったという事実より、あまりにも器の小さい俺自身が情けなくて落ち込んでしまうよ…。









次の日、俺は仕事がオフだったので、近所に住む爺ちゃんの家に行くことにした。
以前から爺ちゃんに碁の相手をしろ、って言われてたし、最近、塔矢とのデートで出費がかさんでるから、ここらで爺ちゃんの機嫌をとって、正月のお年玉に上乗せしてもらえるようにしなきゃならない。

爺ちゃんは俺がプロになってからも相変わらず置き石を嫌がるから、俺は適当に手を抜いて、そこそこの勝負になるようにしてやった。
でも爺ちゃんは、
「孫に指導碁みたいな真似されてたまるか」
とか言ってプンスカ怒ってる。
だってそうしないと勝負にならないっつーの。


「ヒカルはクリスマスも仕事なのか?」
何局か打って、婆ちゃんの手作りのおはぎを食べながらお茶を飲んでたら、爺ちゃんがそんな話をしてきた。
「…うーん、仕事はオフだけど、友達と約束あるからなあ…」
「なんだ。やっぱり彼女ができたのか?」
「やっぱり、ってなんだよ?」
確かに恋人はできたけど、『彼女』じゃないんだよなあ…。
「美津子さんが、最近のヒカルの様子がおかしい、彼女でもできたみたいだ、って言ってたからな」
「お母さんが?」

あー…、やっぱり外泊が増えたからかな?
でも今までだって和谷のアパートに泊まること多かったし、まさかお母さんにそんな風に思われてるなんて…。
母親の勘ってやつだろうか?

「相手はあかりちゃんじゃないのか?」
「なんであかりなんだよ。あかりなんかもう何ヶ月も会ってないよ」
あかりは高校の囲碁部で頑張っている、って話は聞いてるけど、9月の俺の誕生日にプレゼント貰って以来、会うどころか電話もしていない。
「じゃあ仕事関係の人か?女流棋士とか」
「いや、違うけどさあ…」
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