宝物

□恋人以上夫婦未満
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「千鶴、これやるよ」

そう言って差し出された小箱は、黒塗りで桜の紋様が散りばめられた、誰が見ても高価なものだと分かる。

「ひ、土方さん!こんな高価なもの…」

「やるって言ってんだ。素直に受け取っとけ」

「でも…」

「でもじゃねぇ。いつも頑張ってる褒美だ」

有難うございます、と頬をほんのり染め、照れたように笑った千鶴の顔に土方もまんざらでもなく、沖田が見たら、からかいの種になるような笑顔だった。

部屋に戻った千鶴が貰った小箱を開けると

「うわぁ…綺麗…」

箱に負けじと、一本の簪が燦然と輝いていた。
どうして簪なのか、と思い一緒に入っていた文を読む。

『今夜、その簪を持って俺の部屋に来い』


「これは…」

土方と恋仲になったとは言ってもお互いに好きだと伝えただけで、それ以上の関係はない。

いや、口付けまではした。

夜に男の部屋に行くという意味は、鈍感と言われる千鶴でも分かる。

だから恋仲ではあっても、土方に頼まれた時以外は夜にお茶を持って行かないようにしていた。


「でも、来いって書いてあるし…」


深い意味はないだろうと、いつものようにお茶…そして簪を懐に入れて、土方の部屋に向かった。


「土方さん…千鶴です」

「おう、入れ」

襖をそっと開けて入室を促す。

「失礼します」

千鶴の手の御盆にはお茶と茶菓子が乗っていた。

お前も飲め、と茶を勧め、2人で静かに啜っていた。

「そういや千鶴…」

簪は持って来たかと問えば、懐からおずおずと差し出した。

「じゃあ俺は外に出てるから、これに着替えてくれ」

薄紙を開けると、薄紅の、それは見事な着物だった。

「ひ、土方さん!」

「どうした」

「どうしたじゃないです!これは一体…」

「つべこべ言わずにさっさと着替えろ。話はそれからだ」

眉間に皺を深く刻んで、怒り気味に言う様に、分かりましたと襖を閉めた。


「土方さん…あの…」

「……………」

「やっぱり似合いませんよね、き、着替えま…ぇ?」

いきなり腕の中に閉じ込められて頬に手をあて、上を向かされる。

穏やかな、でも艶っぽい笑みを浮かべた土方と目が合った。


「俺の見立ては間違っちゃいねぇな」

静かに言われ、自分でも真っ赤になっているのが分かる。

顔が熱い…

それをごまかすように

「そうでしょうか?でも…有難うございます」

真っ赤な顔のまま、微笑む千鶴はガキでも何でもなく、ただ1人の女で。

さぁどうしようか、と思っていると千鶴がお礼がしたいと言ってきた。


「いらねぇよ。俺が勝手に贈ったんだ。受け取ってくれたらそれでいい。こうやって、女の姿を拝めたしな」

「でも、いつも貰ってばかりで…」

「どうしてもと言うなら…」

気が付けば、壁ぎわに追い詰められていて、顔の横には土方の腕があり逃げられない。彼の顔はいつも見るそれとは違い、どこか雄くさい色が宿っていた。


「どうしても、と言うなら千鶴、お前を俺にくれ…」

私は土方さんのものなのに、どういう事なのか、首をかしげ土方を見上げる。


「まだ分からねぇ、て顔だな…」

そう言って、彼の顔が近づいてきて、そっと瞳を閉じる。

いつもくれる優しいそれではなく、呼吸を奪われるような激しさに、土方の胸を叩く。

唇を離すと、はぁはぁと肩で息をしている千鶴の瞳が潤んでいて、自分の理性が限界だと叫んでいた。


「言っただろ?お前をくれ、と…」

「わ、私は…土方さんの…」

「違う。こういう事だよ」


そっと押し倒された布団の上。

「俺が…女にしてやる」

囁かれた言葉は媚薬となって、ただ彼に自分の身体と心を預けた。






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