キセキノウタ
□第7話:入部希望!?
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「……本当に愛想悪いな」
「そのせいかどうか解らんが、ヤクザだとかマフィアだとか噂されてるな」
走り去った赤いジャガーを見送りつつ、健と律はまことしやかに囁かれている噂を口にした。
「っ、なんだそれっ!? 龍聖はそんな奴じゃないぞっ!?」
「お、落ち着けって!ただ彼奴の放つ独特の雰囲気とか、顔の傷とか」
「龍兄の悪口なんて聞きたくないっ!」
「龍兄っ!?」
「あっ!?」
まことしやかに囁かれている噂の事を耳にした澪は、思わずそう叫んでしまい、律達は驚いて声をあげる。
しまった、と思ったが時既に遅く。
「ムギ、家でメシ食ってきなよ」
「良いんですか? では連絡しておきますね!」
「さぁて澪ちゅわ〜ん? ジックリ聞かせて貰うからな〜?」
「はっ、はーなーせーっ!」
ハッハッハッ!と笑いながら、律は澪を引き摺って歩き出し、健とムギはその後を追いかけたのだ。
◇
「さぁて澪ちゅわ〜ん?」
「…………」
場所を移して健の部屋。
律はニヤニヤしながら澪に詰め寄り、ムギは何かを期待する様な眼差しを向ける。
「………解らないんだ……」
「はい?」
俯いたままボソリ、と蚊の鳴くような声色で澪は呟き、3人は思わず聞き返した。
「だって龍兄は10年も前に死んだとされていて、なのに龍聖が同じ桜高の生徒として、今存在していて……!重ねちゃいけないのは知ってるけど、どうしたら……解んないよ……っ!」
「っ、」
ボロボロと涙を零しながら、澪は律達に縋るような視線を投げつけ、そんな澪の様子に3人は息を飲んだ。
律達にしてみれば軽い気持ちだったのだが、澪にとってはそうではなかったのだ。
「ご、ごめん、澪っ!」
「言い方が悪かった!だから泣くなっ!なっ?」
ワタワタと慌てふためきながら、律と健は必死になって澪を宥める。
澪を泣かせたくない、と誓った自分達が泣かせては、本末転倒も良いところじゃないか。
「……ねぇ澪ちゃん? その龍兄、と言う方は亡くなってるの……?」
律と健の尋常じゃない慌て振りに疑問を感じながらも、ムギは落ち着いて尋ねた。
「……解らないんだ……」
「解らない?」
ポツポツと澪は語り出す。
龍兄と呼んでいた人物と自分の関係、死んだのではなく死んだとされる理由。
「……そうだったんだ……」
その事を聞き、律達には言葉がなかった。
「っ!? なぁ、ひょっとしてソイツの名前……っ!?」
何かに気付いた様にハッとなった3人。
「……『龍聖』……」
「っ!!!?」
そんなまさか。
「で、でもほら、髪の色とか瞳の色とか……っ!」
「……精神的ショックが大きいと、髪の毛の色って抜け落ちるんだって、パパが……。それに龍聖の片方の瞳は、特殊なカラコンで、本来は薄いブラウンとグレーのオッドアイなんだ……」
「………」
あの日、龍聖が帰った後、両親に告げられた事を掻い摘んで澪は話した。
そんな澪の様子を、3人は複雑な心境で見つめた。同一人物であるはずなのに、全くの他人のような態度。
そんな龍聖を、澪はどんなにか遣る瀬ない思いで見つめているのだろう……、接しなければならないのだろうか……。
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