キセキノウタ
□prologue
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この桜ヶ丘自然公園の園内には、樹齢1000年を超える1本の巨大な桜の老木があり『桜ヶ丘の千年桜』とも言われ、またこの市のシンボル……御神木でもあり、結構県内外でも有名であった。
しかし近年、この老木に桜が咲かない、という事態が増えていた。咲いてもその老木の半分、若しくは1/3という年もあるのだ。
県議会や市議会では、この老木の伐採を何度となく検討してきた。
勿論、御神木を伐採するなんてとんでもない!という市民の声も多々あったが、たかが老木1本維持するのに予算がかかり過ぎている事や、この数年一度も桜の開花が無いのだ。
念の為、樹木医に『診察』して貰ったが、既に桜を咲かせるだけの生命力がない、との事。
その結果を踏まえての伐採だと、市長は市民に説明をした。
納得する者、せぬ者、それぞれあったが、既に議会で決議承認されてしまったのだ。
その決議から数ヶ月後。
その日遅くまで市庁舎で仕事を片付けていた市長は、チラホラと咲き始めた桜の木を眺め、ふと自然公園内のあの老木の事が気になった。
(……伐採する前に、もう一度あの老木を見ておこうか……)
そう思い立った市長はタクシーを拾い、桜ヶ丘自然公園へと向かった。
市庁舎から タクシーを走らせる事30分。
タクシーを降りて園内を歩く市長。
まだ夜桜見物には時期尚早だが、市民の中には一分咲きでも構わねェ!とばかりに、酒を飲んでいる者達もいる。
頼むからその場で寝てくれるなよ? 幾ら暖かくなってきたとはいえ、まだまだ肌寒い。
こんな寒空の下で凍死でもされたら、後々面倒なんだ。
そんな事を思いながら、酔客にチラリ、と視線を走らせて市長は目的の老木へと、ひたすら歩みを進める。
やがて見えてきたその老木に、思わず市長はゴクリ、と息を飲んだ。
(な、なんなんだ……!? この立ち枯れた筈の老木から放たれる、圧倒的な感じは……!?)
これが千年もの間、戦禍に曝されても焼失する事無く、この地に在り続けた木なのか。
(……こんな老木を伐採しようとしているのか、私達は……)
その圧倒的過ぎる老大樹を目の当たりにして、市長は冷や汗を掻いた。
足が竦んで、前に進めない。
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