キセキノウタ
□第1話:新たな出逢い?
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春3月。
漸く春めいて来たとはいえ、まだまだ肌寒い時期。
桜ヶ丘自然公園内に植えられている桜の花も三分咲きで、陽気に誘われる様に開花を始めていた。
そんな桜並木の間を、1人の少女……というよりも、女性というに相応しく成長した彼女は、ゆっくりと、ある場所へ歩みを進めていた。
艶やかなその黒髪は腰の辺りまであり、その体つきは学生時代にくらべると、より女性的で柔らかな雰囲気を醸し出していた。
……まぁ彼女の場合は、元からスタイルは良かったのだが。
夕闇迫る中、彼女が向かうのは、通称『幽幻桜』の下。
……思えば全ての始まりは、あの『幽幻桜』からではなかったか。
視界に飛び込んで来た樹齢千年を超える大樹を見て、彼女はふと思った。
自分が満開の『幽幻桜』を目にしたのは片手で足りる程だが、満開ではないものの『幽幻桜』が咲いた時期というのは、自身にとって大事な決断なりする(した)年ではなかったか?
……まぁ幼い日の出逢いはアレだが。
「(……そう言えば、あの好々爺達はどうしているのだろう……)」
『幽幻桜』が満開になる時は、必ず彼らが関わっていた。
そんな彼らと、今年は満開の桜に逢えるだろうか……。いや是非逢っておきたい。
何故なら。
「……澪?」
その彼女を呼ぶ、優しい声。
風に煽られ髪を片手で押さえながら、自分を呼んだ人物に振り返れば、柔らかい笑みを浮かべていた。
「ぼうっとしてたけど、考え事か?」
「……んーん、何でもないっ」
そう言って自分を呼んだ愛しい人の腕に、自分の腕を絡めてその人を見上げた。
「ただ、あのおじいちゃん達に、今年は逢いたいなって思っただけ」
「あぁ、確かにな。あの爺さん達のおかげで、2人で新たな道を行ける訳だ……って話してる傍から聞こえないか……?」
言われて耳を済ませば、風に乗って聞こえて来るのは、独特のしゃがれた声。
「……混ぜて貰う?」
「序でに一曲披露したらどうだ?」
「っ!? は、恥ずかしいからヤダっ!」
「ヤダって……。おま、一応プロだろっ!?」
呆れた様に言うも、その歩みは止まらない。
「ね!早く逢いに行こうよ!」
「判った判った」
キュッとと手を繋ぎ、淡い桜色の光を放つ『幽幻桜』に向かって歩みを早めた。
「ほぅれ!坊にお嬢、早よう来んか!」
『幽幻桜』の下で、2人を呼ぶ声が聞こえた。どうやら彼らも心待ちにしていたらしく、2人は互いに顔を見てクスリ、と笑みを漏らして駆け出した。
「おーい、おじいちゃん達ーっ!」
第1話:新たな出逢い?
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