キセキノウタ
□第2話:再会の入学式
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── とあるマンションの一室 ──
ピピピピっ!と目覚ましのアラームが鳴り響く。
「ん……む……」
布団から腕が伸びて、目覚ましを探すかの様に左右に動き、やがて目的のモノを掴むと、アラームを止めて時間を確認する。
「……5時……。眠い……」
もぞもぞと布団に潜り込み、再び夢の中へ……。
ピリリリリっ!
「うおっ!?」
突然けたたましく鳴る携帯に驚くも、その電話に出る。
【グッモーニン、リュー】
『……モーニン、レディ……』
くあっ、と欠伸をかみ殺して、リューと呼ばれた青年は返事を返した。
【随分眠そうね? そっちは何時?】
『……午前5時ちょい過ぎ……』
【あら、早かったかしら?】
『ん……大丈夫……。で?』
青年は身体を起こして髪を掻き上げながら、レディと呼んだ女性に尋ねる。
……まだ肌寒いというのに上半身は裸。
だがその身体は傷だらけで……。刀傷だけでなく銃創痕もある。
【あら。今日はSakuragaoka High schoolの入学式でしょ?】
だからよ、と電話の向こうで微笑んだのが判った。
『……ありがとう』
【どう? やっていけそう?】
電話の向こうでは心配そうにレディが尋ねてくる。
『……多分』
【頼りない返事ねェ……。戻ると良いわね?】
『戻らなくても困らないけど』
【そうも行かないでしょう? リューの記憶の隅にヒントがあるなら、それを解決しなきゃいけないわ?
それが顔も声も忘れていたとしても、その『約束』があったからこそ、今貴方は生きている。……違う?】
諭す様に、けれども有無を言わせない。
確かにレディのいう通り、あの『約束』が記憶の隅にあったからこそ、あの過酷な状況の中を生き抜いて来れたのは間違いない。
【あ、そうそう。バッキンガム大学の学長から、レポートは必ず提出してくれ、ですって】
『っ!? ちょ、マジかそれっ!?』
【じゃ、そういう事だから。あ、あと近い内に私達からと、あのバ……陛下から御祝いが届くと思うから。
それじゃ、エンジョイしなさい】
『ちょ!?』
プツン、ツーッツーッ……。
「……あのクソじじぃ……っ」
ブチっ、と通話を切ると、自分が世話になっている大学の学長に向かって文句を言った。
……学長を捕まえて『クソじじぃ』とは、如何なものか……。
「はぁ……。時間もあるし、ランニングでも行くか……」
そう言って彼はベッドから抜け出し、トレーニングウェアーに着替える。
勿論両手首と両足首にウェイトを付けて。言わずもがな、シューズにもウェイトが仕込まれている。
「……ひとっ走り行くか……」
そう言って彼は、15階建てマンションの最上階から階段を駆け下りて行った。
第2話:再会の入学式
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