キセキノウタ

□第4話:秋山家の人々
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「ただいまー」

「あ、澪ちゃんお帰りなさい」



 あの後、律と健と別れて帰宅すると、紗南がパタパタとスリッパを鳴らして、玄関で澪を出迎えてくれた。



「とう? まだ2日目だけど、学校には慣れた?」



 紗南が桜ヶ丘高校のOGだと知ったのは入学式後、家族で食事に行った時。



「堀込先生、まだ桜高で教師やってるのねー。ママ驚いちゃった」

「……え? えぇーっ!? ま、ママ桜ヶ丘の卒業生なのっ!?」

「えぇ、そうよ? じゃなきゃ、桜ヶ丘薦めたりしないわ?
尤も共学になるなんて知らなかったけど」



 ニコリ、と笑って紗南は言い、澪はガックリと肩を落とし



「……だから色々知ってたんだ……」



 と、呟いたのだ。




「う…ん。慣れた、って言うか……」



 紗南と並んで廊下を歩きながら、今日あった事を話す澪。



「そう……。龍君がね」

「っ!? なん!?」

「あら、ついあだ名で呼んじゃったわ。龍君と同じ名前だから」

「そ、それは私も……っ」



 最初名前を聞いた時、まさかと思った位だから、と口の中で呟けば



「あら? にぃにじゃないの?」

「っ!? そ、それは小さい頃の話だろっ!?」



 と、澪は真っ赤になった。そんな娘をみて紗南は、コロコロと笑う。



「あぁ、そうそう。今夜お客様を1人連れて来るからって、さっきパパから連絡が来たの」

「お客様? 警察の人かな?」



 ダイニングにある椅子に腰掛けながら、澪は紗南に尋ねる。



「関係がある様でない様で」

「どっちっ!?」



 思わず母親にツッコミを入れる澪。



「あら、だってパパもハッキリ言ってくれないんだもん。……和哉さん、私の「はいはい、それは良いから」澪ちゃんのイジワルー」

「(アンタ一体、幾つだっ!?)」



 ハンカチを噛んで、さめざめと泣く我が母を見て、口には出さずにツッコミを入れる澪。



 亡くなった京はともかく、最近母親に年の事を言うと、頬を抓られる事が増えた。



 曰わく



「京の口癖じゃないけど、何時までも30代前半でいたいの」

「……20代後半じゃないんだ……」



 だから口に出さずにツッコミを入れる。



 これが京なら、それすら御法度だが。



 だが確かに、娘の澪からしても、紗南は20代後半から30代前半でも通用する若さだ。



 だから偶に母子で買い物へ行けば、仲の良い姉妹に見られる事もしばしば。



  ── 閑話休題 ──




「ただいまー」

「あら、パパだわ。お帰りなさーい」



 パタパタとスリッパを鳴らして、紗南は和哉を迎えに玄関へ行く。



 澪はもうそんな時間なのか、と時計を確認すれば5時少し前。何時もより早いな、などと思っていると──。



「澪ちゃん、お客様にご挨拶して?」



 と紗南に促され、その顔をみて



「………っ!? えっ!? アルバラート君っ!? なんでっ!?」

「……やっぱりか。姉貴に紹介された時、まさか、とは思ったが……」



 あ然とする澪を余所に、龍聖は溜め息を吐いて言う。



「ははっ、驚かせたな」

「あら澪ちゃん、制服のままね。着替えてらっしゃい。あ、準備が整うまで、澪ちゃんよろしくね」

「へっ? あ、うん……。アルバラート君、こっち……」



 と澪は自室に案内した。



「……あら、澪ちゃんったら積極的ね♪」

「まぁ相手が龍聖君だから構わないが」



 それから直ぐに、澪の悲鳴が聞こえて来たのはお約束。










第4話:秋山家の人々
    コミュニケーション(後)











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