BBS劇場

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髪の毛の話。(和←澪)





「澪の髪って綺麗よね」

「なっ……なな何を突然言いだすんだっ!!」

教室でぼんやりしてた時。
和のいつものように唐突な言葉にやっぱりいつものように動揺した。
自慢じゃないが褒められ慣れてないんだっ、と声を大にして言いたい位に。
人との交流が苦手なこの性格だ。
イジられたりからかわれたりするのには慣れてはいたものの、褒め言葉というものに大概免疫が無かった。

「黒髪ロングって憧れちゃうわ」

髪の一房を和が手に取る。
それにびくり、と反応する。
別に髪に感覚器官なんて無いはずなのに。
何故か直接肌に触られたように感じてむしょうに恥ずかしくて慌てて髪を取り返した。

「の、和は……っ昔からその髪型なのか?」

自分でも変に思う行動を取り繕うように、和に話を振る。
平常心だ。平常心を取り戻さなくては。
和はそんな私の様子を特に意に介する事無く、相変わらず穏やかに微笑みながら答えた。

「そうね。中学よりもっと前、小さい頃からかしら。髪を長くした事ないの。だから長い髪に憧れるのかもしれないわ」

「そうなんだ……。両親がショート派とか?」

「さあ?どうかしらね」

「和も伸ばしてみたらどうだ?きっと似合うと思うぞ?」

髪の色素が薄くて、さらさらしてて、柔らかくて。
私の髪とは大違いだ。
黒くて、直毛で、けっしてふわふわなんてしてくれない髪。
きっと和が伸ばしたらふんわりした綺麗なロングになるんだろうな、なんて思ってたら。

「ふふ、澪は優しいのね……お世辞でも嬉しいわ。私にロングは似合わないって思ってたから」

「そんな事ないっ絶対和のロングは綺麗だ。絶対だ!私の言う事が信じられないのか?」

今度は反対に私が和の髪の一房を手に取って、真剣な顔で訴えた。
私の真面目な顔に対して、柔らかい笑みを浮かべている和。

「ありがとう、澪。」

とても嬉しそうな顔をして、私の訴えを受け入れてくれた。
そのとたん恥ずかしくなる。
勢いで和の髪の一房を掴んでしまった事とか。
絶対綺麗だなんて言ってしまった事とか。
いや本当に本気でそう思っているけれど、本音を言うのってやっぱり恥ずかしい。
和の笑顔の目の前で「いや、あの、うん」などと唇をぱくぱくと動かしてから和から視線を逸らした。
ちょうどその時、教室の後ろの入り口から和に声が掛かった。

「和せんぱーい」

「はーい。またね、澪」

そうして和がスッと私から一歩下がり、入り口の方へ歩きだした。
私の手の中からするりと抜ける和の髪。
見れば和と和の後輩が入り口の所で談笑している。
和の後輩は和に憧れているのだろう、きらきらとした瞳を和に向けていて。
ああ、和はもてるんだなと思った。
なんとなく胸の辺りがちくりとした。何故だかわからないけど。
さっきまで和の髪を掴んでいた手が妙に寂しくて、自分の髪を一房手に取った。
それから独り言を宙に放った。

「和もロングにすればいいのに」

そしたらおそろいなんて柄でも無い事を思った。









end

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