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□涙の後に
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携帯を持つ手が震えていた。
それは寒さのせいなどではなく。

あれから一週間が過ぎた。
俺は…あいかわらずへたれでダメな男だった。
猿飛に連絡をとろうとしてもたったひと押しが出来ないでいる。
会話を始めるたった一言を探せずにいる。

ほぼ猿飛の名前でうまった発信履歴−

こんなに猿飛から離れていることなんて初めてかもしれない。

気まずさも罪悪感も忘れて猿飛の家まで押しかけてしまいたい衝動にかられる。

猿飛からの着信はない。

もっともあいつから電話やメールなんてあったためしはないんだが。

そこまで考えて胸が押しつぶされそうになる。
所詮、俺の一方的な思いだ。
最初から、そう最初から分かっていた。
このまま連絡を取らずに、あいつの前から消えて、俺の中からもあいつを消した方がいい。
そう必死に言い聞かせて、にぎりしめていた携帯を放り投げる。

あんなことをしてしまったあとで、友達になんて戻れるわけがない。

たとえあいつが許してくれたとしても、俺はもうあいつを手に入れたい気持ちをおさえることなんかできないだろう。
紳士になんか振舞えるわけがない。


拳をにぎりしめる。

あの日々はもう戻って来ない。

俺のそばで笑っていた猿飛はもう戻って来ない。

何よりも大切だった。

俺を見てなくても良かったはずだった。
俺の隣で笑ってくれていたのだから。

「…っなんで…」

本当になんであんなことをしてしまったのだろう。

「馬鹿だな…俺は…」

何よりも大切だったその笑顔を
俺なんかの幸せよりもずっと大切だった人を
自分自身の手で傷つけた

「本当に最低だ…」


ごめん、猿飛
本当にごめん

届くはずもない謝罪の言葉を俺は繰り返した。


銀八の言葉の意味なんて俺には分からなかった。なんだかんだ言っても、あいつは俺たちよりも長い人生を生きていて、俺たちがどうなるのかを俺たちよりもよく分かっているなんてこの時は思いもしなかったんだ。
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