old clap

□夜道
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「近藤さ、ん、やめてください…」

「そんなこと言いながら、全然、お妙さん嫌がってないじゃないですか?」

「そんなことないです…」

妙の顔は真っ赤になっている。
近藤はそれでも妙が自分を殴り飛ばさないでおとなしくしているのがかわいくてついつい頬が緩んでしまう。

いつものように近藤はすまいるから帰る妙のストーカー、もとい、護衛をしようと閉店後のすまいるの前に潜んでいた。妙は閉店前に近藤がすまいるに行けなかったこともあり、他の客に指名され、相当飲まされていた。
酔っていたのである。
そして、妙は店の入口の看板につまずき、転んだ。しかも足をひねってしまった。

歩けないことはなかったが、足取りはたどたどしく、夜道を一人で歩くには危なすぎた。
近藤は有無を言わさず、抵抗する妙をおんぶして歩き始めたのである。



「いいんですよ。そんな恥ずかしがらなくても。まあ、ゴリラにこんなことされるのもお妙さんとしては我慢ならんのでしょうけども。今日は一警察として市民を助けているだけですから。」

「分かってます。」
妙は自分ばかり意識しているようで恥ずかしくなって、つっけんどんに返した。
近藤が善意でやってくれているのは分かっている。下心なんてないのに、なぜ自分はこんなに動揺しているのだろう。
この胸の鼓動が近藤に聞こえてしまったら、変に勘違いされてしまうではないか、そう思えば思うほど、心臓の鼓動が速くなり、顔が熱くなる。
近藤の広い背中。
体温。
たくましい筋肉。
いつもと違った落ち着いた大人の低い声。
心地よい沈黙。
それらが麻薬のように妙の頭をくらくらとさせた。
酔ってるからだわ。
妙は自分に言い聞かせる。
だから、この人に背負われているのが心地いいなんて思ってしまうのよ。
ずっと家に着かなきゃいいなんて思ってしまうのよ。
足首には相変わらず鈍い痛みがある。
それすらも甘く感じてしまう。


「近藤さん、」

「はい」
妙に名前で呼んでもらえたことが嬉しくて近藤はすぐに返事をする。

「ありがとうございます。」
妙はそれだけ消え入るような声でつぶやくと近藤の肩に額を押しつけ、そのあと舞いあがった近藤があれこれ話しかけても、答えなかった。
恥ずかしかったのだ。
今の自分の声を聞かれたくなかった。
顔を見られたくなかった。

それがなぜか、考えれば分かるのだろうけど、今は分かりたくなかった。

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