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□闇に紛れて夢を見る
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真っ赤な血しぶき。
闇の中でもそれが真っ赤だとわかるのは独特の鉄の匂いに呼び覚まされた自分の記憶で見ているからなのか。

血の海の中でたたずむあなたは神々しいほど美しかった。

俺が潜んでいた組織の中にたまたまあなたのターゲットがいただけのこと。

目の前で惚れた女が人を殺しているというのに、出会えたことを喜んでいる自分を自嘲する。

「何、笑ってるのよ?」

始末屋の顔をしたまま、あなたは尋ねる。

「猿飛さんって、殺した奴のこと全員覚えてます?」

彼女は形のよい眉をゆがめて。
「そうね…名前を知っている相手なら。」

「俺の名前は覚えてます?」

彼女は黙った。
いぶかしげな瞳で俺を見る。
何が言いたいの?

「はは、やっぱり覚えてないんすね。山崎退ですよ。俺のこと殺したら、覚えててくれますか?」
一歩彼女に近づく。

「生憎だけど、私は好きで人殺ししてるわけじゃないわ。仕事でやってるの。」
彼女は首を振る。もう殺気は消えていた。

「依頼しますよ。金は意外とありますから。」
にこりと笑って、もう一歩彼女に近づく。

「いくら積まれたってあなたを殺すのなんかお断りよ。」
彼女は一歩下がる。

俺が無言でもう一歩近づくと、彼女はひらりと身をひるがえして、夜の闇に消えていった。

始末屋と監察。

相いれないことは分かっている。

だが、この想いは消せない。

大切な真撰組を裏切り、監察を辞めることも出来ない。

それならば、好きな女を守って死にたい。

そう思っていたが、彼女を守るどころか、彼女の手が穢れていくのを見守ってしまった。

彼女の為に死ぬことも出来ないのなら、彼女の手にかかって死にたい。
彼女の記憶の中に永遠に残る。

それすらも許されぬ。

「弱いな、俺。」
山崎は再び自嘲する。

苦しみながら、また再び彼女に会える日を夢見て生きてくのが自分には似合いの生き方らしい。


頬に飛んだ血を手の甲で拭って、山崎はあやめが消えていった闇を見つめた。


愛する女と一緒に日を送るよりは、愛する女のために死ぬ方がたやすい。(バイロン)






名前くらいとっくに覚えてるわよ。





恋愛格言5題Part2+山さち5題より。
Traum der Liebe様。)

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