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□いつか終わる純粋
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大学に入ってはや二年
結局、俺も猿飛もそう簡単には卒業できなかった。

あいつと俺は、学部こそ違えど、共に地元の大学へと進んだ。
俺は家業を継ぐことが決まっているし、大学なんてどこでも良かった。
銀八と同じ職につきたくて、銀魂高校から離れたくない猿飛は地元の教育学部を選んだ。
教師になんざ、なりたくないが、猿飛の近くにいたい俺は猿飛と同じ大学の工学部へと進学した。


酒を飲みつつ、略奪愛だの元彼だの騒ぐ級友たちを見ていると
猿飛の気持ちを尊重して(俺がヘタレなのは置いといて)、ずっと好きだと言えなかったことを思い出し
あの頃の純情を笑いたいような
それでも誇りを持っていたいような
なんとも言えない気分になる。

俺はそんなに簡単に人を好きになれないし、嫌いにもなれない。
まだ餓鬼なのかもしれないが、それだったら一生餓鬼のままでいいと思う。

飲み会帰りに少しふらつきながら帰る夜道でそんなことを考える。

俺はまだあいつのことが好きで。
大学でも、週に一度は会って一緒に話したり、飯食いに行ったりはしているが、幼馴染という関係はそのままだ。
卒業式の告白はお互いになかったことのような扱いになっていて。
ただ俺の前で、あいつが銀八の話をすることはほぼ無くなった。
だが、あいつの目には相変わらず、あの銀髪教師しか男として映らないらしい。
今でも、たまに高校に会いに行っているのはなんとなく知っていた。

大学に入ってますます綺麗になったあいつは隠れファンクラブまである始末。
告白した男たちが次々と玉砕しているという噂は聞いたが、本人は記憶すらないのか俺に話すことはない。
俺の告白も、あいつは本当に忘れているのかもしれない。
俺がまだあいつを好きだとは思っていないかもしれない。


酔ってぼやけた視界に、見慣れた薄紫が映る。
良く見れば、俺の家の前に猿飛が立っていた。
酔いが吹き飛び、慌てて駆けだす。

猿飛はこちらを振り向いて、至って普通に笑った。
「おかえり。飲んできたの?」
「そうだけど…こんなとこで何やってんだ?」
猿飛は春になったとはいえ、まだ夜は冷え込むこの時期に薄いブラウスにミニスカートという格好だ。
気合の入ったおしゃれに、ああ、銀八に会いに行ってたんだなと頭の片隅で考える。
だが、猿飛の胸元に俺は目が釘付けになる。
おまっ、何でボタンが3つも開いてんだよ!
下着とか見えてるし!
そういう事ばかりに敏感な俺の頭の中に、よからぬ妄想が繰り広げられる。
猿飛は恥ずかしがることもなくあっさり告げる。
「…体で誘惑しようとしたの…」
誰を、なんてのは聞かなくても分かる。
(はあっ!?)出かかった悲鳴を手で口を塞いで飲み込む。
変態ストーカーなのは知っていたが、そこまでやったのかよ!?
怒りとともによからぬ妄想がさらに湧いて、顔が熱くなる。

それに気づかない猿飛は憂鬱な顔をして、ため息をつく。
「でも、だめだった…残念。先生は本当放置プレイ好きなんだから。」
かあっと頭に血が上った音が聞こえた気がした。

気付いた時には怒鳴っていた。
「ふざけんなっ。そんなこと二度とすんな!!!」
あれこれ考える前に俺が口に出すなんて。
はっと気付いて、片手で自分の口を塞ぐ。

猿飛が驚いたように目を開いてこちらを見ていたが、目をそらしてぼそりと言う。
「…関係ないじゃない…。」

それが引き金だったのかも知れない。
「関係ねーとか言うんなら、何で来たんだ!?
お前が銀八を好きなのは分かってるけど、でもそんなことしたってあいつは絶対お前のこと好きにはならねーだろ!
そんなことして、ヤったって、意味ねーだろうが!」
言葉が止まらない。
猿飛は黙ってうつむいてる。

「もう、いい加減、あきらめろよ!
無理だって分かってんだろ?
俺は…」
乾いた音が響く。
左ほほに鈍い痛み。
猿飛が泣きそうな顔でこちらを睨んでいる。
最低な自分に反吐が出そうになる一方で、貯めこんでいたものが爆発していた。

俺だって泣きてーよ。
お前の気持ちは誰よりも分かるよ。
だけど、俺だってもう限界なんだ。
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