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□涙の後に
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熱いシャワーが冷え切った体に心地よい。
自分でも気付かない間に唇を指でなぞるとあの感覚がよみがえってきた。
頬に血が集まるのを感じる。
「っなんで…」
あやめはへたりとしゃがみこんだ。
確かに自分が不注意だった。
全蔵の気持ちは知っていた。
いや、正確には知らなかった。
あやめの中では全蔵の告白は過去のことであり、その時点で終わっているものだと思っていたのだ。
まさか、その時と変わらぬ気持ちを全蔵が持ち続けていたとは思わなかったのだ。
「馬鹿…ね…」
視界がにじむ。
なぜ自分はそうも簡単に思いこめたのだろう?人一倍、好きな人への想いが簡単にあきらめられるものではないことは分かっているのに。
全蔵の感情をあまり出さない安定さ故に錯覚していたのだ。
友情だと。
その安定が心地よかったのだ。
それがこうも簡単に崩れてしまうものだとは思いもしなかった。
ぽたり、ぽたりと水道水とは違う水分がへたり込んだ膝の上へと落ちていく。
罪悪感と喪失感で胸が押しつぶされそうになる。
ただ唇が奪われたこと、体に触れられたことには悲しいだとか、悔しいだとか、気持ち悪いだとかいった感情が湧いてこなかった。
「初めては先生と…って決めてたのに…。」
言い聞かせるように呟くが、全蔵に触れられた記憶が鮮明に蘇る。
ぞくりと甘い感覚が体の奥に湧き上がる。
『好きだ。猿飛。』
聞いたことのない低い声で囁かれたとき、頭の芯がしびれるようだった。
強引に抱き寄せられた腕の温かさに強張っていた全身から力が抜けそうになった。
怖かった。
自分が自分でなくなるようで怖かった。
今まで自分を支えてきたものを全て取られてしまうと思った。