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□君に幸あれ
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誰だかなんてすぐに分かった。
姿を見なくても
声を聞かなくても

くわえている煙草を落としそうになる。

どんな顔をして振り返ればいいかなんて考える前に俺は振り返っていた。

だって
やっぱり
俺は
お前が好きなんだ


「探したんだから。」

猿の声は少し震えていた。
それでもぎこちなく微笑んでいた。

何の変哲もない昼間の公園。

俺がよく煙草を吸いに来るのを猿は知ってた。

俺は何も言えなかった。
ただ黙って猿を見た。
いや、見とれていた。
ぎこちない微笑みも、いつもよりぼさぼさの紫の髪も、ちょっとはれぼったい瞼も、全部を好きだと思った。
何よりも愛おしいと思った。

「嘘よ、すぐ分かった。家じゃなかったらここだってことぐらい。」
猿はそう言ってまたぎこちなく笑った。

その言葉に、笑顔に涙が出そうになる。

「猿、ごめん。本当にごめん。俺…本当に最低でっ…」
俺は許されているのだと思っていいのだろうか?
またあの日々を取り戻せるのだろうか?

「全蔵は…悪くないわ。私がっ…」
猿が俺の言葉をさえぎる。

ぎこちない笑顔が消えて
その顔は真っ赤で、今にも泣きそうになっていた。

「猿?どう…した?」
俺の胸に一気に不安が押し寄せる。

「全蔵、本当に今までごめん。
私、全然、気がつかなかったの…その…全蔵の気持ちに…。」


猿に、気を遣わせていることに俺は心臓が千切れそうになる。
「いや、いいんだ。俺は…もう…いいんだ。俺はお前が笑っていてくれるならいいんだ。」
本心だった。

ずっと自分に言い聞かせてきた。

でも
猿を見て

俺は

心からそう思っていた。

今まで、ありがとう。これからも友達として…
そう続くはずだった言葉は猿によってさえぎられた。
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