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□憂鬱weekend
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〜Friday〜

銀時が騒がしいパチンコ屋から出てくると、
金曜日の夜ということもあって、色とりどりのネオンに彩られた歌舞伎町の通りには着飾った多くの人が行きかっていた。
ホストにキャバ嬢、ホステス、やくざに、ニューハーフ、時折天人の姿も見える。
銀時はうつろな目でそれらを一瞥すると万事屋へと足を向けた。

「おねーさん、ちょっとお茶しない?」
道中、ふと耳に飛び込んできたセリフに
おいおい、今時そんなナンパの仕方あるかよ。
と内心で突っ込みつつ、おもむろに銀時は目を向けた先にちらりと見えたのは藤色の艶やかな髪だった。
思わず、銀時は足を止める。
通りの反対側で、いつもの忍び装束ではなく、濃い紺色の足首までの丈の着物に萌黄色の帯をしめたあやめがナンパ男二人組に絡まれている。
髪は着物に合わせるように、華やかに結いあげられていた。
どこぞのパーティーにでも行くのかといった格好だ。
華やかなキャバ嬢やホステスが闊歩するこの街でも、あやめは目立っていた。

へぇ、馬子にも衣装ってやつか。
あんな奴でも声をかける野郎はいるのね。

銀時は他人事のように思う。いや、正しく他人事なのだが。
しかし、あやめが眼鏡をかけているらしいことに銀時はなぜか安心していた。

「悪いけど、私、銀さん以外に興味ないの。」
あやめは氷のような答えを返す。
「誰だよ、銀さんって。」
男たちは盛大に下品な笑い声をあげる。
「そんなこといわないでさ、ちょっとぐらい、いいじゃん。」
男があやめの肩をつかむ。

銀時の胸の中にもやっとしたものが浮かぶ。
え?
何これ?
てか、なんで俺逃げねーの?
あいつがこっちに気づいたりしたら面倒じゃん。

だが、銀時の足は地面に根を張ったように動かない。
目はあやめの肩に置かれた男の手にくぎ付けになってしまう。

銀時は気付いていなかった。
自分が木刀の柄を握り締めていたことに。

だが、銀時が何か行動を起こすまでもなく、あやめは男たちを目にも止まらぬ速さで素手で殴りつけて気絶させていた。
倒れている男たちに目をくれることもなく、さっと身を翻し、あやめはいつも通りの軽やかな身のこなしで夜の街に消えていった。


銀時の体の呪縛が解ける。

え?
本当に何これ?
何で俺、安心してんの?

銀時の背中に冷や汗が伝う。

関係ねぇ。

銀時はそう呟いてその場を去った。
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