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□涙の後に
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かたくなな心を壊したのは全蔵の口づけだった。
自分でも、何故あんなことをしたのか分からない。
思考回路は完全に停止していた。
ただ…欲しかった。
何をしているのかも分かっていなかった。
押し倒されて
怖くなった
もう逃げられない、と
先生の代わり、と思おうとした
しかし
あれほど恋焦がれて毎日見続けてきた男の顔が思い出せなかった。
愕然とするあやめを引き戻したのは
号泣する全蔵の姿だった。
あんなに悲しげな泣き顔を見たことはなかった。
心が捩じ切れそうで見ていられなかった。
およそ反省とは無縁な人生を歩んできたあやめにとって初めてといっていい、後悔に襲われた。
「どう…すればいいの…?」
思えば、いつも隣には全蔵がいた。
銀八のちょっとした言動に一喜一憂するたびに、めんどくさがりつつも最後まで話を聞いてくれていた。
悩んだことなどないような気がした。
悩む前に全て全蔵に吐き出していたから。
どんなに望みがないと周りが言っても
根拠のない確信を胸に
常に前に前に進めていた。
涙があふれた。
何故自分はあんなにも自信を持っていられたのだろう?
暗闇に一人取り残された迷子のような気分だった。
どうしていいか分からなかった。