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□君に幸あれ
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温かく柔らかいものが腕の中に飛び込んできた。
ふわりと香るのは、いつもの、猿の匂い。あの夜嗅いだ甘い匂い。
「全蔵、好きなの!」

「え?」
信じられない言葉に俺は耳を疑う。

「今さらだけど…、遅すぎたけど、私、あんたのことが好きなのよ!
ずっと気付かなかったけど、私、全蔵がいなきゃだめなんだって気がついたの。」

心臓が止まるかと思った。

猿飛の肩は震えていた。
俺の胸にうずめた顔はどんな表情をしているのか分からなかった。

「だ、だってお前…銀八は?銀八はどうすんだよ?」
俺の脳裏を銀八を見つめる猿飛の横顔がかすめる。
いつだってその綺麗な瞳に映っていたのはあの銀髪教師だけだったはずだ。

「先生は、違うの…憧れ…だったの。私が、いつも笑っていられたのは、前を向いていられたのは…全蔵のおかげだったって今さら気付いたの。全蔵と会えなかったこの一週間、毎日が辛くて何をしていいかも分からなかった。
全蔵がいなきゃ、先生に会えたってデートしたって意味がないのよ。
全蔵がいなきゃ、何も楽しくなんかないのよ。」
嘘だろ?お前も俺と同じ気持ちだったのか?
猿飛が顔をあげる。

その瞳に映っていたのは確かにうだつのあがらない俺の姿で。

「好きよ。全蔵。」

真っ直ぐな視線。

俺がずっとずっと欲しかったものがそこにあった。

俺たちは
本当は
お互いに
分かっていたんだ。

お互いに支えあっていることを。


おそるおそる猿飛の肩に触れる。

確かな感触がそこにあった。

思い切り猿飛を抱きしめる。
ありったけの想いをこめて。
今までの。
高校の屋上で一生封じ込めようと決めていたはずの気持ちを込めて。

「ぜんぞ…」

「…信じていいんだよな」

猿飛はこくりとうなずいて、腕を俺の背中に回した。

温かいものがこみ上げる。
「ずっとずっと待ってた。」

「ごめんね、全蔵。ごめんね。」
猿飛が小さな声で言う。
泣いているんだと分かった。

「泣くなよ。馬鹿。」
「本当に馬鹿よね。ごめん。」
「馬鹿じゃねーよ。」
「どっちなのよ!」
猿がこっちへ顔を向ける。
その顔は笑っていた。

「好きだ。」

猿の顔が赤く染まる。

「もうどこにも行かせねーからな。」

あれ、俺も顔赤いんじゃね?
でも、まー、いいや。
これだけは言っとかなきゃな。

「一生、幸せにするから。」

猿飛が今まで見たことがないくらい可愛く笑った。

ああ、俺は一生幸せでいられるな。

そう思って猿を抱きしめた。
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