荒川SS
□恋人達のクリスマス
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「リク。」
「はい?」
その年が終わりそうなある12月の昼下がり。恋人のニノに呼ばれ、リクこと、リクルートは仕事の手を止め、振り返り、返事をした。
「もうすぐクリスマスだな。」
そう続けたニノは無表情だったが、声は心なしか弾んでいた。
「せっかく地球でクリスマスを迎えられたんだ。ちゃんと恋人達のクリスマスをしたい。」
本当は、冬の前に金星にいく予定だったが、問題があり、行けなかったのだ。
「そうですね。今回は2人で忘れられないクリスマスにしましょう!」
そうリクがいうと、ニノは柔らかく微笑んだ。
「あぁ。」
「まずはケーキですね。」
「ケーキか…シスターに作ってもらうか?」
「シスターに作ってもらうのもいいですが、どうせなら一緒に作りませんか?俺、パティシエの免許もありますし。チャレンジするのもいいかと…」
リクが提案すると、ニノは目を輝かせた。
「いいな!!いわゆる共同作業というやつだな。P子にかりた本で読んだぞ。」
嬉しそうなニノを見て、リクは顔を緩めた。
「じゃあ一緒に作りましょう。材料は俺が揃えます。なにケーキがいいですか?」
「ホワイトクリスマスだから、ショートケーキじゃないか?」
「はい。苺ものせましょうね。」
「あぁ!!」
リクは、メモ帳を出し、
苺のショートケーキと書いた。
「クリスマスツリーも一緒に飾りましょうか。」
「そうだな。」
「ツリーと飾りはうちのがたしかあったので、それにしましょう。」
幼い頃、周りがクリスマスツリーの話をしていたのを聞いて、どうしても欲しくなったことがあった。
幼い行は父に聞くと、母が生まれる前に買っていたと言う。小さいツリーだったが、母が残した数少ないものであったため、毎年クリスマスになると飾っていた。
荒川かせんじきに来てからは飾っていなかったが、家にまだとってあったはずだ。
そう思いながら、リクはメモ帳にペンを滑らせた。
「魚は私が採ってくるぞ。」
リクが夕食を何にしようかと考えていると、タイミングよくニノが発言した。
「そうですね。調理は俺がします。ムニエルとかどうでしょう?」
「むにえる?なんだそれ天使の名前か?」
「違いますよ。魚料理の一種です。鮭を採ってきていただくとありがたいですね。」
「おう!!わかったぞ。大物を期待しろ。」
リクは鮭のムニエルとメモし、ペンにキャップをした。
そうして迎えた恋人達のクリスマス。
二人はリクの部屋でクリスマスツリーを飾っていた。
「このリボンはここがいいですかね?」
「おう、このベルはここがいいな。」
小さなツリーだったが、二時間近くかかった。
イルミネーションもつけると、豪華で、ニノは嬉しそうに目を輝かせた。
「ケーキを作りましょうか。」
リクはそういうと、冷蔵庫を開け、材料や、調理器具を次々と台所に並べた。
「ニノさんは小麦粉をはかってください。」
「おう!!任せておけ、菓子作りは計量が大切だとシスターがいっていたからな。」
「そうですね。俺も昔、一度はかり間違えて失敗してましたし。それ以来、何度も確認するようになったものです。」
リクは得意気に話した。
「リク、一回で正確に入れられたぞ!!」
ニノは嬉しそうに声を弾ませた。
「おっ、さすがです、ニノさん。」
「当たり前だ。これはファナリスボス能力といって金星人の能力のひとつだ。」
「へぇ〜」
ニノの突然の金星トークにリクは曖昧な返事を返した。
「では材料を混ぜ合わせましょう。」
リクは材料を入れていき、ニノは混ぜた。
「けっこう力が要りますからね。疲れたら言ってください。代わりますよ。」
「大丈夫だ。」
そうして、生地を焼くまでに至ると、リクは生クリームを出した。
「ホイップクリームを作りましょう。ずっと混ぜているのは大変なので、電動泡立て機を使いましょう。」
そういってスイッチをいれた。
「おお!!すごい勢いで回っているぞ!!」
「危ないですから、触らないでくださいね。」
「あぁ。」
そういってニノはリクが生クリームを混ぜるのを真剣な目付きでじっと見た。
しばらくすると、リクは、"の"の字を書き、満足したようによしと呟いた。
「冷蔵庫に入れておきましょう。」
しばらくすると、タイマーが鳴り、リクはオーブンからスポンジケーキを取り出した。
いい感じに膨らんでいて、甘い香りが部屋を満たした。
「う、美味そうだぞ。」
ニノはよだれをたらしながら言った。
「ニノさん、まだですよ。飾り付けてからです。」
「わ、わかっている。早く飾り付けよう!!」
よだれを拭きながら言うニノを見て、リクは破顔した。
「ええ。」
リクは、クリームの絞り方をニノに教えた。
ニノははじめてながらに上手く絞り出した。
「器用ですね。」
「ああ。金星ではこのくらいできて当たり前だからな。」
「金星のレベルは高いんですね。」
「ああ。」
クリームを頬につけながら生き生きと金星を語る恋人が可愛く思えて、リクは、ニノの頬に手を伸ばした。
「クリーム、ついてますよ。」
クリームを指で拭い取り、赤い舌を出してなめた。
「ずるいぞリク。」
「へ?」
意外な反応にリクは、唖然とした。
「我慢していたのに、お前だけ食べるのはずるいぞ。」
そういってニノはリクの唇を奪い、舌を口にいれた。蕩けそうな、クリームが甘いのか、わからなくなるくらい甘い甘い、口づけに、リクの頭は真っ白になり、なにもできなかった。
やがて解放されると、リクは、咳き込んだ。
段々思考が戻り、状況を理解したリクは、息が上がって赤かった顔をより赤くした。
「いきなり…ハァビックリしました…よ…ハァ
クリームなら、沢山作ったじゃないですか。」
息も切れ切れに言うと、ニノが申し訳なさそうな顔をした。
「すまなかった。リクだけずるいと思って、つい…な…」
「食べたかったら、ボウルの中からとればよかったじゃないですか。」
「そうだな…でも甘かったぞ。」
そういって、ニノはケーキの飾りつけに戻り、リクは、茫然と立ち尽くした。
まだ残る唇の温もりに、初めてキスした時のことを思い出した。
飾りつけが終わり、ニノが鮭を持ってくると、リクは、ムニエルを作り出した。作っている間中ずっとニヤケ顔だった。
作り終え、ニノに知らせようと振り向くと、ニノはソファで寝ていた。
とりあえず食卓の準備をして、起こそうと近づいた。
「ニノさん、準備できましたよ。」
リクはニノを揺すってみた。すると、ニュッと腕が延びてきて、リクを引き寄せた。膝立ちのままニノに抱きすくめられた形になったリクは、狼狽し、引き剥がそうとしたが、離すどころか、より強く抱き締められ、息が苦しくなった。
もう無理。
そう思ったとき、長い金色のまつげが揺れ、まぶたが開き、ようやく解放された。
リク、本日二回目の咳き込み。ニノが背中をさすり、大丈夫かと繰り返した。
おさまると、ニノの手を借り、立ち上がった。
「リク、恋人達のクリスマスを始めよう。」
そういって、手を引っ張った。
外は暗く、雪が降っており、月明かりに美しく照らされていた。
「メリークリスマス、リク。」
「メリークリスマス、ニノさん。」
二回目のクリスマスは寒かったが、恋人達のクリスマスは、雪を溶かしそうなほど暖かく、幸せだった。
→あとがき