銀魂SS

□届かなかった
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「カハッ…」


己のものとは思えない真っ赤な手。


いつもは他人の血だが、今は違う。


夢うつつのような感覚。


意識が遠い。


ただ頭に浮かぶのはピンク色の髪をしたチャイナ服の少女。


外は明るい。


周りには近藤さんや土方さん、そして隊士たち。


みんなが口々に何かいうのが聞こえるが、何も聞こえない。


頭に流れるのはチャイナの声。


無邪気な笑顔で振り向く


まだ死ぬわけにもいかないと体を起こそうとするも、力が入らない。


精一杯の力を出して、


「一人にしてくだせぇ」


そう呟いた。


みんながぞろぞろと去って行くのが見える。


近藤さんが最後に名残惜しそうにこちらを見た。


「ゲホッ…ゲホッ…」


湿っぽいせきがでて布団を朱に染める。


静かに体を起こした。


――ニャア


ネコ…


襖からネコが顔を出した


不吉なことにも黒猫だ。


だんだん近づいてくるネコが、死に誘っているようで、とっさに剣に手を伸ばした。


力を振り絞り、黒猫目掛けて刀を降り下ろした。


刀は空を切った。


黒猫は見えなくなった。


とたん、力が抜けていった。


体が傾いて行くのが妙にゆっくりと感じた。


目を閉じた。



チャイナが見えた。



手を伸ばした。








届かなかった。



→あとがき
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