他話

□大臣エド@
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あと数分で、今日が終わろうとしています。
今日も至って平和な一日でした。
平和と言うより、退屈と言った方が正しいかもしれませんね。
こんな平穏な日常ばかりが続くと、時々刺激も欲しくなります。
たまにはちょっとした事件でも起こってくれれば、退屈な日々も楽しくなりそうなのですが・・・。


「ご苦労様」
私は守衛達に声を掛け、城内を見回ります。
城の巡回は私の役目というわけではありませんが、毎夜就寝前に必ず行っていました。
言ってみれば、ただの趣味ですね。
深夜のフィガロ城というのも、また趣があっていいものです。

いつものように夜の城は、これといった異常は見受けられません。
城の者達も、大抵は床に就いてしまっているのでしょう。
辺りは静寂そのものです。
このまま滞りなく、本日の日課も終わりですね。
明日に備え、そろそろ私も休ませてもらうとしましょう。


ふと、誰もいないはずの応接室から、明かりが零れていました。
今日は来客があった為、誰かが消し忘れたのでしょうか。
私はため息混じりに扉へ向かいます。
そっと中に入って明かりを消そうとしたところ、僅かに人の気配を感じました。
ソファに視線を移すと、エドガー様が気持ち良さそうに眠りこけてるではありませんか。
何故、エドガー様がこんな場所で眠っているのか。
そして何故、誰も気付かずに放置しているのか。
いくつかの疑問が私の頭をよぎりますが、とりあえず今は、エドガー様を起こす事が最優先ですね。

「陛下」
私はソファまで近付くと、小さくお声をお掛けします。
しかしエドガー様は少しも動じず、静かに寝息を立てているだけです。
「陛下」
今度はもう少し大きめの声で。
それでもやはりエドガー様は起きません。
余程お疲れになっているのでしょうか。
完全に熟睡しきってますね。

「陛下、起きてください」
軽く肩を揺すってみます。
「・・・、・・・」
そうすると、微かに反応がありました。
「・・・ん、・・・ああ、大臣か・・・」
ようやくエドガー様が目を覚ましたようです。

「こんな所でお休みになられては、お風邪を召されますよ」
日中はうだる程の暑さですが、夜にもなればかなり冷え込みます。
「・・・いい・・・」
エドガー様はそう一言だけ呟いて、また眠りに落ちようとしていました。
この御方は何を言っているのでしょうか。
風邪をひいてもいいという意味ですか?
貴殿は風邪くらいと軽く見ているようですが、もし寝込まれでもしたらたまったものではありません。
困るのは私共です。

「陛下、自室にお戻りください」
もう一度、眠りかけていたエドガー様の肩を揺さぶります。
「・・・うるさい・・・」
邪険に手を払いのけられてしまいました。
寝ぼけているらしく、どことなく駄々っ子のような物言い。

「もしご面倒なのでしたら、私が寝室までお連れしますが?」
跪いて、エドガー様のまどろんだ目線に合わせます。
「・・・うざい・・・」
国王様の素の顔。
口調までぞんざいになってますけど。
品位の欠片も見当たりませんね。

「はあ・・・」
私は本気で困り果ててしまいました。
国王様をこんな所でお寝かせするわけにはいきません。
どうにかして自室にお戻りいただかないと。
「・・・ん、・・・」
エドガー様は私の心配など露知らず、気持ち良さそうにソファに埋もれています。
このや・・・いえ・・・。
エドガー様。
貴殿がそういう態度なのでしたら、私にも考えがあります。
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