他話

□大臣エドD
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心はうつろいゆくもの。
はじめは些細な悪戯。
あのときは、まだ気付けなかった。
これほどまでに貴方に惹かれてしまうなんて。

貴方には、意地悪ばかりをしてしまいましたね。
本当に申し訳ない事をしたと思っています。
でも、貴方がいけないのですよ。
あんなにも甘い声で、私を惑わせるから。
羞恥に耐える泣き顔が、余りに可愛すぎるから。
切なく私を求める腕が、たまらなく愛おしかったから。

貴方が好きです。
夢の中でも、貴方を想っています。


愛しい人のキスで、目を覚まします。
私は未だ、夢でも見ているのでしょうか。
もしこれが現実だとしたら、私は世界中の誰よりも幸せ者ですね。
なぜなら、私の恋焦がれた貴方の唇が、今、目の前にあるから。

「・・・、」
エドガー様が、寝ている私に口付けを落としてきます。
いえ、寝ているといっても、本当はもう眠気など吹っ飛んでしまっているのですが。
でも、もう少しこのままでいさせてください。
もっと貴方の唇を受け止めていたい。
私を求める貴方を、もっと感じていたい。

「・・・ん・・・」
甘いキス。
おはようのキス。
私が欲しかったキス。
優しく啄ばんでくる唇が、切なく心を締め付けます。

エドガー様、このキスにはどういう意味があるのですか?
ただ、甘えたいだけなのでしょうか。
それとも、また私を誘惑なさるおつもりですか?
貴方は私を都合のいい玩具に見立てるのが好きみたいですからね。
貴方はご自分が満足なさりたいからという理由で、簡単に私を弄ぶ。

しかし、それでも構いません。
貴方が私を求めてくれるだけでいい。
ずっと貴方に触れていたい。
ずっと、貴方のぬくもりに触れていたい。

唇が離れていくと、私はゆっくりと瞼を持ち上げます。
瞳に映るのは、愛しい人の物憂げな表情。
「おはようございます、陛下」
私の頬に零れる金糸を掻き上げ、梳くように指を通します。
「・・・おはよ」
綺麗な笑顔。
ついつい私まで顔がほころんでしまいます。

優しく髪を撫でてやると、エドガー様がこそばゆそうに目を伏せます。
そんな小さな仕草にも、狂おしく惹かれてしまいます。
誰にも見せない国王様の素顔。
私だけが知っている、貴方の素顔。
貴方にとって、私は特別な存在でありたい。

一国の王である貴方にこんな想いを抱いてしまうだなんて、本当に私はどうかしている。
貴方が恋しい。
貴方が欲しくてたまらない。
貴方を他の誰にも触れさせたくない。
できる事なら、私だけのものにしてしまいたい。
許されぬ願いと知っていながら、それでも貴方を欲してしまう。

そっと耳の裏を押さえ、軽く頭を引き寄せます。
今度は私から、おはようのキス。
「・・・、んっ・・・」
吐息が重なるその瞬間に、遣り切れない感情が溢れてきます。
この気持ちは決して、私から貴方へ告げる事はないでしょう。
私はただ、貴方を想うだけ。
想うだけなら、貴方も許してくれますよね?

「ん・・・、ふっ、んん・・・」
優しく表面を啄ばんで、何度も何度も、貴方のぬくもりを確かめます。
甘く、柔らかな唇。
無邪気に触れてくる唇。
恋人ごっこのようなキス。
恋人以上に求め合うキス。
でも、恋人にはなりきれないキス。

さらに頭を引き寄せ、今度は深く口付けます。
「んんっ・・・」
舌を差し入れてやると、エドガー様の舌も待ちきれずに絡んできます。
せっかちな貴方も可愛らしい。
「・・・んぅ、・・・んっ、ん・・・」
絡んでくる舌を唇で挟み込み、舌先で刺激してあげると、ぴくりと上体が揺らぎます。
たったこれだけで感じてしまう貴方も可愛らしい。

私は口内をゆっくりと掻き回し、焦らすような口付けを繰り返します。
「はあっ・・・、んっ、んん・・・」
エドガー様の頬が火照ってきました。
キスに酔いしれてきたようです。
軽く舌を噛んであげると、少し怯えたように舌が引っ込みます。
「んっ、ん・・・、はあっ・・・、あ、ん・・・」
舌の裏をまさぐってあげると、感じたように甘い声が洩れます。

私を虜にする唇。
とろけてしまいそうなキス。
おはようのキスにしては、いささが濃すぎるような気がします。
とても朝からするようなキスではありませんね。

長い口付けのあと、ようやく唇を離します。
「んっ、あ・・・、だい、じんっ・・・」
なぞるように唇を舐め、キスの余韻を味わいます。
唾液を舐め取る私の舌を、エドガー様の舌が邪魔をしてきます。
「っ・・・、だめですよ・・・」
曖昧に抵抗してみても、その動きは激しくなるばかり。
「・・・んっ、や・・・、もっと・・・」

・・・・・またオネダリです。
本当にわがままな王様ですね。
貴方は限度というものを知らない。
これでは昨晩の二の舞ではないですか。
しかし、貴方がそう望むなら、私には拒む理由が見当たりません。

おもむろに、エドガー様の背を抱き止め、上体を起こします。
「っ・・・」
うろたえるエドガー様の事などお構いなしに、私は素早く体勢を入れ替えます。
ほら、こんなに簡単に立場が逆転してしまいました。
私が上になってしまえば、主導権はこちらのものです。
貴方のお望み通りのキスも、たくさんしてあげられますよ。
ただ、私の気が済むまで離してあげませんが。

「・・・・・」
シーツに押し付けられたエドガー様が、恥ずかしそうに顔をすくめます。
自分が下にされるとは思っていなかったのでしょうね。
私は結構強引なのですよ。
それは貴方も知っているはずでしょう?

優しく頬を押さえ、エドガー様の顔をこちらにを向かせます。
先程のキスのせいで、少し瞳が潤んでいますね。
頬も赤く染まったままです。
そんなに甘えた顔をしないでください。
欲情を抑えきれなくなってしまうではないですか。

反対側の手であやすように髪を撫で、ゆっくりと顔を近づけます。
エドガー様が私の唇を待ち望んで、静かに目を閉じます。
唇が触れ合うか触れ合わないかの距離。
「・・・キスだけでいいのですか?」
欲張りな貴方に、意地悪な質問。
むしろ、キスだけでは足りないのは私の方です。

エドガー様がうっすらと目を開け、訴えるような視線を送ってきます。
「・・・・・」
何も言わなくても、貴方の言いたい事はわかっています。
貴方は快楽が欲しいのでしょう?

貴方が本当に欲しいのは、私のキスなどではなく、ただの快楽。
心の隙間を埋めるように、ただ、いっときの快感に溺れたいだけ。
ええ、それでもいいのです。
貴方が私を求めてくれるという事実が嬉しいのです。

心だけが嘘をつく。
私の身体は、こんなにも貴方を欲してしまっているというのに。
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