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□雨待ち。
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『さむっ…』
まだ眠気の取れない目を擦りながら、思わず身震いをした。
雨待ち。
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前日まで真夏のような暑さが続いていたのに、今日はやけに気温が低い。
親の小言を聞かずに、半袖で家を飛び出したのを少し後悔した。
「遅いよ、水谷〜!」
『あ、わりぃ…』
栄口が家の前で待っていた。
待たされてたくせに、相変わらずの爽やかな笑みを浮かべて。
そんな栄口が大好きだ。
「なんか雨降りそうだなぁ…」
早朝とはいえ、確かに今日は空が暗い。
『オレ、傘持ってるよー』
不安そうな栄口に、折りたたみ傘をちらつかせる。
「なんだ、じゃあ雨降るといいなー」
『…は?!』
「え?なに?入れてくんないの?」
キョトンと目を丸くして首を傾ける栄口。
『…いや、入れるけど』
「てことはさ…相合い傘じゃんっ」
そう言って、アハハ。と楽しそうに笑った。
時々、栄口には度肝を抜かれる。
『阿部になんか言われそー…』
「阿部も三橋の傘狙ってんじゃないかな〜」
『あー…待ち伏せとかしてそう』
「うんうん…」
『で、傘持ってるくせに、持ってないふりして入れてもらってそう』
「…それオレ」
『へ…!?栄口、傘持ってんの!?』
「持ってるよ、折りたたみ」
『お前案外計算高いのな…(笑)』
「い、いいじゃん、相合い傘くらいさぁ」
珍しく頬を染めて膨れた栄口に、笑いが止まらない。
なんだか幸せを感じてしまった。
「あ…降ってきたね…」
ヒンヤリとした風に乗って、小さな雫が顔を滑る。
『おー…』
一つの青い傘がオレ達の間を繋ぐ。
折りたたみの傘だから、二人で入るには小さく。
肩を寄せ合って歩く。
少し、栄口の方に傘を寄せながら。
『あつー…』
お互い顔を真っ赤にさせて、涼しい坂道を下っていく。
…やっぱり半袖で良かった、なんて思いながら。
―END―