透明少女と迷い込んだ野獣

□透明人間
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とある村の森の奥、不気味な暗闇が広がるそこには城がある。

だが、あまりにも不気味な場所で、人一人そこに近づこうとはしなかった。

噂では、その城には幽霊がいるという――。



「やめときなって、お兄さん」

その城に近づこうとする者が、一人いた。
長身の男で、整った顔立ちをしている。
紅く鋭いその眼光は、その男の"強さ"をあらわしているようにも見える。

「構うな、俺はそこに用がある」

小さな魚屋の店主らしき男が、男を止めようとしたが無駄だった。
既にその男はどこかに行ってしまい、止めようにも姿が見当たらない。
やがて店主は諦めたのか、小さくため息をついた。










「ここか……確かに薄気味悪い城だ」

紅い瞳をした男――XANXUSは、噂の城を睨んでいる。
噂通りの不気味さと、湿った空気が居心地の悪い雰囲気を醸し出している。



――ギィッ……



しかし、XANXUSは怯える気配もなく、城の扉を開いた。

「………」

蜘蛛の巣だらけの、ほぼ廃墟と化している城を想像していたが、そうでもなかった。
城の中は、不自然なくらい綺麗にされており、時計の針も狂うことなく時を刻んでいる。

「…誰かいるのか?」

返事はない。
これだけ綺麗にされていれば、誰かいるものだと思っていたが。



――パリンッ!!!



その時、部屋に皿が割れたような音が響き渡った。
……やはり誰かいる。
XANXUSは、割れた音がした部屋へと入っていく。

「……」

中には、誰もいなかった。
その部屋は、どうやらキッチンのようで、これまた不自然なくらい綺麗に食器が整頓されている。
ただ、先程の音の正体は、虚しく床に破片となって散らばっていたが。

「あの…」

中には、確かに誰もいない。
何度も何度も、確認した。
だが、今の声――まだ幼さの残る少女の声は、どこから??
さすがのXANXUSも少し驚いたのか、周りを見渡している。

「ここです」

もう一度声がした方へ目を向けると、そこには――何もなかった。
まさか、幻聴なのではと一度は疑ったが、幻聴がそう何度も何度も聞こえるのはおかしい。

「驚かせてしまってすみません、えっと…ちょっと待ってくださいね」

少女の声は、やはりXANXUSに向けられている。
XANXUSは、指示されたように静かに待っていると、やがてそこに小さな熊のぬいぐるみがこちらに向かって歩いてきた。

「あらためまして、こんにちは」

ぬいぐるみが歩いて喋る――そんな非常識なことがありえるのだろうか。
しかし、現にXANXUSの目の前には、歩いて喋る熊のぬいぐるみがいる。
だが、更にXANXUSを驚かせるひと言が、その熊の口から飛び出した。





「私、透明人間になってしまったんです」





 


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