ファイヤーエンブレム聖戦の系譜

□血縁
1ページ/4ページ

トラキア半島は二つの顔を持っている。北半島は豊かな大草原に多くの小王国が分立し、南半島は険しい山々と不毛の大地に竜騎士で知られるトラキア王国があった。トラキア王国への足掛かりとなるミーズ城制圧を目指し光の公子セリスの本軍は順調に兵を推し進めていた。本隊とは別の動きをしている二人の騎士が山間の山賊に襲われている村の解放へと馬を走らせていた。
「アレス王子待って」
美しい黄金髪をなびかせながら気高さをも感じさせる風貌の女騎士は前を走る同じ黄金の髪を持つ黒騎士に声をかけた。
「ナンナ」
アレスはその声に振り向くと馬を止めた。
「村の山賊退治は、俺1人で十分だとセリスに言ったはずだが」
アレスは冷たく言い放つと馬を走らせようとする。
「私が一緒に行きたいとセリス様に願い出たの」
ナンナはアレスにどんなに冷たくあしらわれてもいつものように、にっこりと聖女のようにほほ笑むとアレスは迷惑そうにナンナの顔をちらりと見た。
「俺は、魔剣ミストルティンの継承者だ。助けなど不要だと言っている。それに、いつも俺を気に掛けるように話しかけたり、世話してくるのはなぜだ?」
鋭く見つめてくるアレスにナンナは負けじと見つめ返した。
「あなたが、強いのは十分わかっています。これあなたに渡すことで、なぜ私が気にかけていたのか理由もそれで分かると思う。」
アレスは警戒心丸出しの顔をしていたが、ナンナは馬から降りると革袋から大事そうに古びた手紙を取り出しアレスに手渡した。
「あなたに、エルトシャン王からの手紙です」
「父上の!」
「私は、エルトシャン王の妹ラケシスの子です。」
「な、なんだと叔母上の子だと言うのか」
「はい、母はあなたの事をずっと心配していました。レンスターに来たのもあなたを探すためだったようです」
「俺の父上はアグストリアが戦乱になることを予期されて病弱の母と幼い俺をレンスターの実家に預けられたそうだ。しかし、そのレンスターも帝国軍に侵略されて...戦火の中で母上は死んだ。」
「それでジャバローに?」
「ああ、ヤツは俺をひろって育ててくれた。俺はヤツの傭兵軍団と共に世界をわたり歩いてきたのだ。」
「だから会えなかったのね」
アレスはその手紙を強く握りしめ、もくもくと目を通していた。無理はない、記憶などほとんどない父からの手紙なのだ。一人孤独に生きてきたアレスにとってそれは思いがけないものだったに違いない。自分も亡きラケシスの遺言ともいえるこの手紙を渡すことができてほっと胸をなで下ろしていた。
「ねっ、わかったでしょう?エルトシャン王はシグルド様を最後まで信頼されていたのよ。二人は真の親友だったと思う。」
「そうだったのか...俺は間違っていたようだ...」
ナンナは兄以外にも肉親がいたことにうれしくなった。
「俺には、肉親と呼べるもの達がいたんだな、お前とデルムッドが。とりあえず今はゆっくり話をしている場合ではないな。村へ早く救出に行くぞ」
「そ、そうね」
二人は愛馬にそれぞれ跨ると村へと急いだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ